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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

12月12日付朝鮮新報・エッセイ「時代の闇を押し返す新しい光」」

時代の闇を押し返す新しい光                      河津聖恵                                                          
                                 
 去る11月27日、ソウル特別市マポ区にあるカトリック青年会館で、『ハッキョへの坂道』と『私の心の中の朝鮮学校』の合同出版記念会が、発行元のオルピョ社主催で開かれた。私も朗読者として参加した。前者の本は、昨年八月に私と許玉汝さんが編集した『朝鮮学校無償化除外反対アンソロジー』から在日コリアンの詩人と日本の詩人38人の詩を翻訳して収めた詩選集。後者は、「モンダンヨンピル」共同代表であるクォン・ヘヒョ氏が、朝鮮学校生が音楽を聴いて描いた絵に寄せたエッセイの絵本。これら二冊の収益金の半分は、韓国の支援団体「モンダンヨンピル」を通じ、被災地の朝鮮学校に送られる。すべては朝鮮学校のためのチャリティー企画である。
 書とのコラボの力強いコムンゴの演奏の後で、私たちの朗読が始まった。まず私が「ハッキョへの坂」、次に許さんが「ふるさと」、最後に二人で許南麒の「これがおれたちの学校だ」を朗読。「ハッキョへの坂」は、最初に第一連を朝鮮語で、それから日本語で冒頭からあらためて読んだ。これまで人前で何度も読んできた作品だが、この時は本当に感慨深かった。殆ど韓国人である二百名の観客を前に読み進めるうちに、自分が不思議に解放されていくのを感じた。読むのは日本語であるのに、思いが、声のただ中から一人一人の胸へとすっすっと入っていく。詩に描いた、春の光や鳥の声や少女たちの笑い声や桜吹雪や校庭に吹く風や先生の微笑みのイメージが、確実に共有されていく。希有な体験だった。
 次の許さんの「ふるさと」の朗読は、私以上の思いがこもっていた。同じ民族である人々の胸へ在日としての自分の来歴と思いを訴える声の張りは、いつになく力強い。会場全体の「感情」が高まっていくのを感じた。「これがおれたちの学校だ」の二人の朗読では、読みながら、北風に耐えながら母国語を学ぶ子供たちの息遣いまで、間近に感じ取るようだった。朝鮮学校のことを知ろうと真剣に耳を傾ける朝鮮民族の人々が発する「気」によって、詩の中からこれまでにない深いリアリティと感情が、私に立ち現れたのだ。
 二人の朗読の後は、『尹東柱評伝』の訳者である愛沢革さんの朗読、朝鮮学校卒業生のチャンゴの舞、同じく同校出身の任キョンアさんのチェロ演奏と朝鮮学校生の製作した映像のコラボ、「冬のソナタ」の次長役で有名な俳優クォン・ヘヨさんのトークなど、素晴らしいプログラムが続いた。本はこの夜だけで四百部が売れ、会の終了後出口で行われたサイン会では、私も多くの人々から激励の声をかけられた。
 今回の会の波動は時代の闇を押し返し、新しい光を呼び込むと確信している。詩の力をさらに信じ、彼我共に頑張っていこうと勇気をもらった素晴らしい一夜だった。
※『ハッキョへの坂道』と『私の心の中の朝鮮学校』は、近く日本でも販売される。さらに今回のダイジェスト版に韓国の詩人達の詩を加えた日本語版も刊行予定されている。