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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

詩人黒田喜夫の中国核実験への回答

昨夜のNHKスペシャル「沖縄と核」は衝撃的でした。今の辺野古の新基地建設も含めて、沖縄の基地問題は核という視点から捉えるべきだと思いました。

 

返還前の沖縄の恩納村のミサイル基地には、広島の原爆の70倍もの威力を持つ核ミサイルが多数配備されていたそうです。東西冷戦が緊迫する中、中国に向けて、いつ発射されてもおかしくない緊迫状態が続いていた、と元兵士が語っていました。

 

そのような緊迫した状況下の1964年、中国は最初の核実験に踏み切りました。その過程は今の朝鮮民主主義人民共和国の核実験の場合をも想起させます。

 

この中国の核実験には、社会主義が核を持ったことに理解を示す人も少なくなかったとききますが、黒田喜夫の全評論集・全詩集『詩と反詩』(勁草書房、1968)に、当時早稲田大学新聞が行った核実験についてのアンケートに対する詩人の興味深い回答が収録されているのを発見しました。一部をご紹介します。

 

質問1
現在の世界情勢の中で、とりわけ、中国の核実験は、世界の人々に大きな影響を与えたと思いますか。

 

回答1
中国核実験のニュースのうち、特に中国民衆が熱狂しているという部分に心打たれました。彼らは勝利した。そして飢えからの解放のためには、飢えたる者は不正義も許容するという飢えの鉄則も勝利した。彼らの勝利は、そのために勝利の重さと同じだけの負の荷物を背負わなければならない。われわれはそれに耐え、それと闘っていかなければならないと思います。中国民衆とではもちろんなく、飢えの鉄則の現われ自体とです。また次にくるのは、日独の核武装ではないかと考えられます。

 

質問2
中国核実験については、その衝撃の大きさにもかかわらず、いまだ支持・反対を含めて、明確な態度が充分に発言されていないように思われますが、あなたはそれについてどういう立場をとるべきだと思いますか。それはどういう理由からですか。

 

回答2
回答1の理由で反対です。

 

「不正義」という言葉が重いです。アメリカの核ミサイルが「悪」であるとしても、それに対抗して自らに核を持つ欲望を許してしまうのは、決して「善」でも「正義」でもなく、「不正義」という無限の自家撞着を強いられるべき罪を突きつけられることなのだと詩人は言っているのです。善悪の二項対立に落ち入ることなく、また核による平和の時代なのだと相対化するのでもない、詩人ならではの本質的な視点だと思います。

 

今の朝鮮半島情勢下では、いつまたアメリカに核ミサイルを配備されてもおかしくない日本。私たちは核と日本との関係の歴史を今こそ振り返るべきではないでしょうか。そしてどんな国の人々より思い悩み、苦しむべき立場にあるのだと思います。私たちには、そういう隠された思考の力があるのではないでしょうか。

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