パリ初日。幸運なことにこの街を愛する地元の元青年(永遠の青年だと思う)の案内を得て、初日から市内を半分歩いて横断し、さらにRERでサン・ドニまで足を延ばすことが出来ました。
パリに生まれ育ち、絵も音楽をバリで学んだ人。行き当たる小路の猫のことや、幼い頃からのアイスクリームの味を教えてくれたり、美術館では画学生の頃の思い出に耳を傾けました。本当はフランス語を通して聞きたかったですが、声や眼差しや表情によって分かるものがあり、(多分私に合わせてくれた)英語でも私は十分でした。
一人で歩けば硬く冷たい石の街のままだったかも知れない。でもパリへの愛を感じさせるその人の言葉や眼差しによって、初日からパリという街は柔らかくいきづき始めました。
曇って雨がぱらついたかと思うと、まるで魔法のように晴れるパリの空の下をセーヌ川に沿って優しいパリジャンの背中を見て、安心して歩くことが出来ました。そのぶん激動の歴史がいまだしっかりといきづく街の良さを、私なりに堪能することが出来たように思います。
生き生きと語り合い挨拶を交わし合う人々の姿とからみあう街そのものの呼吸。たしかにここには、人を惹きつけてやまない磁力があります。恐らく時にそれが人を狂わせることもあるでしょう。ノートルダム大聖堂のあたりは、「マルテの手記」のリルケも佇んだはずだったと思います。あの鈍色の死の物語をもう一度読みたくなりました。
「こうして人々は生きるためにこの都会へ集まって来るのだが 、僕にはそれがここで死ぬためののように考えられる。 」