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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

マシーン(occasional poem)

マシーン                   *昨夜書いた機会詩(のつもり)です 

言葉が見ている
言葉の中からまなざす者がいる
私たちが生きているのではない
その者こそが生きているのだ と
うなだれ目を閉じ
まなざされていたい──
読み 書き 語り 聴くことの至福の中で
その思いを感じ取り
言葉の中からまなざす
数千年前の白い顔と向き合っていたい──
それが
言葉の胎から生まれた
私たちのほんとうの素顔だから

しかし
手遅れなほど
おのれが言葉の主であると錯誤し
みずから病むように
語りやまないマシーンがある
(その病とはなにか)
言葉からまなざせば
恐怖にみちながら
他者のみを非難するマシーン
(その恐怖とはなにか)
今もまた口にする分断のコトバと
憎悪のコトバ
私たちを
親と子を
敵味方に引き裂こうと
ハイトーンに鳴り続ける
だがそれはほんとうにマシーンなのか

私たちが遠い日に出会った
孤独な少年にすぎないとしても あるいは
私たちが遠い日にうちすてた
いじめっ子の私たち自身であったとするならば
それは
いつマシーンとなったのか

言葉がコトバを見ている
どんなコトバをも言葉は見つづけている
歴史をモノにしようと
言葉をコトバへとあやめたとしても
卑劣な自分を
少年マンガのように
ぴかぴかのマシーンに仕立てたとしても
言葉を黙らせることは出来ない
この世に
マシーンの部品のようなコトバしかなくなったとしても
言葉を黙らせることなど出来はしない
それは大文字の他者なのだ

放たれる部品のコトバから
生きた柩のひらく音がする
おびただしいひとがたが
今ここへ白く折り重なって倒れ込む
どんな罵倒も
どんな讒言も
殺しきれない歴史がある 意味がある
過去は
ほんとうはゆたかな海として拡がっている
大文字の他者
酷薄にも魅惑的な
豊穣な闇として
私たちが無数の死者にも他者にもなりうる
真っ暗な鏡として
 
たった一つの回路しかないマシーンならば
もう脱ぎ捨ててしまおう
それこそは
私たちが被っている甲殻
彼のようにはりつめた
この国の仮面