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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

たかぎたかよし『夜の叙法 ふでさき─三つの断簡─』

たかぎたかよし『夜の叙法 ふでさき─三つの断簡─』(編集工房ノア)。Image893
おお、と思いました。
怖ろしい緊張感にみちみちている詩集です。
カバーの色「瓶覗(かめのぞき)」は
私も大好きな色ですが
色の名前が不思議です。
この「瓶覗」はどんな精神の瓶を覗いてみえてきた色なのでしょう。

たかぎさんの詩世界には
前々詩集の『見跡記』で初めて触れて
生と死のあまりにも研ぎ澄まされた意識と感覚が
痛いほど印象的でした(あの詩集カバーは明るい萌黄色でした)。
あまりにも精緻に言葉が選択されていて
生と死に対する詩的覚悟に戦慄をおぼたものです。
ちょうどその頃私自身、初めて死をつよく意識して動揺していた頃で
たかぎさんの詩世界に靜かに深く励まされました。
また、やはり同じ頃
私がある雑誌に書いた大変落ち込んだ文章に対し
初めてたかぎさんから、励ましのお便りをいただいたのでした。
その詩と同じように深く温かな言葉に
私は心底励まされました。

昨日の『こくごのきまり』との連関でいえば
この詩集のひらがなには、
たえず漢字の緊張感が伝わってきます。
面白いことに同じひらがなの表情が『こくごのきまり』とはまったく違います。
時折ふられるルビも漢字を和らげるのではなく、
訓読みに対する作者のこだわりを強調し
作品の緊張感を高めています。
どの作品からも、氷が張りつめていくのにも似た
結晶化のかすかな音が聞こえるのです。
その背景に存在するのは
死と生に対するつよい、激しくおしころした意識なのです。

「体調ままならず。」というあとがきに記された一文が、気になります。

 夜の括り紐とも甘草とも覚える銀河の下だ。それでいて、暗がりは深かった。

 竈(かまど)の火を見つめることがあった。朱の揺れ、墨の沈み、そこに私が居た。静謐へ、燃えて鎮まる色のまま。すぐに白が積もる。ここまで隠されてきた花なのに。

 時の穂先にその名を重ねる。ぼんやりと、木蓮、フリージア。ちらと、まだ咲かぬ青も。

 瞑(くら)きにあって、地は核をたぎらせている。原初、遙かな宙空をやってきたものに。言葉もそのような火だった、人以前を抱く。暁光は、内なる漆黒に爆ぜて勁い
                                          (「篝」より)