たかぎたかよし『夜の叙法 ふでさき─三つの断簡─』(編集工房ノア)。
おお、と思いました。
怖ろしい緊張感にみちみちている詩集です。
カバーの色「瓶覗(かめのぞき)」は
私も大好きな色ですが
色の名前が不思議です。
この「瓶覗」はどんな精神の瓶を覗いてみえてきた色なのでしょう。
たかぎさんの詩世界には
前々詩集の『見跡記』で初めて触れて
生と死のあまりにも研ぎ澄まされた意識と感覚が
痛いほど印象的でした(あの詩集カバーは明るい萌黄色でした)。
あまりにも精緻に言葉が選択されていて
生と死に対する詩的覚悟に戦慄をおぼたものです。
ちょうどその頃私自身、初めて死をつよく意識して動揺していた頃で
たかぎさんの詩世界に靜かに深く励まされました。
また、やはり同じ頃
私がある雑誌に書いた大変落ち込んだ文章に対し
初めてたかぎさんから、励ましのお便りをいただいたのでした。
その詩と同じように深く温かな言葉に
私は心底励まされました。
昨日の『こくごのきまり』との連関でいえば
この詩集のひらがなには、
たえず漢字の緊張感が伝わってきます。
面白いことに同じひらがなの表情が『こくごのきまり』とはまったく違います。
時折ふられるルビも漢字を和らげるのではなく、
訓読みに対する作者のこだわりを強調し
作品の緊張感を高めています。
どの作品からも、氷が張りつめていくのにも似た
結晶化のかすかな音が聞こえるのです。
その背景に存在するのは
死と生に対するつよい、激しくおしころした意識なのです。
「体調ままならず。」というあとがきに記された一文が、気になります。
夜の括り紐とも甘草とも覚える銀河の下だ。それでいて、暗がりは深かった。
竈(かまど)の火を見つめることがあった。朱の揺れ、墨の沈み、そこに私が居た。静謐へ、燃えて鎮まる色のまま。すぐに白が積もる。ここまで隠されてきた花なのに。
時の穂先にその名を重ねる。ぼんやりと、木蓮、フリージア。ちらと、まだ咲かぬ青も。
瞑(くら)きにあって、地は核をたぎらせている。原初、遙かな宙空をやってきたものに。言葉もそのような火だった、人以前を抱く。暁光は、内なる漆黒に爆ぜて勁い。
(「篝」より)