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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

そのタイトルは「坂」だった

ふと思いました。
なぜ私は小説を書かないのだろうかと。
詩も小説も同じフィクションなのに
魂の食指は(キーボードに向かう指も)はなぜ詩のほうへと向かうのか。

嘘を書こうとは思わないし
むしろ昨日よりもっと真実に近くありたいと思っている。
そのような衝動があるのですが
それはかなり直接的な衝動だから
ストーリーも秩序もない詩へと向かうのでしょうか。

しかし詩はあくまでフィクションなのです。
登場人物のいないフィクション。
私は非人称だとか、私は私でないとか
私は死んでいるとか言って誰にはばかることもない
むしろ小説よりもより虚構的であるフィクション。
だから、とんでもない無謀な内容さえフォローしてしまえる。
人をころしたって、自分が死んだって、世界が破滅したって許されるジャンル。

それは小説よりももっと深く
宇宙の悲惨でありうるほどフィクションであるのかもしれません。

しかし、だからこそ、
詩だけが言いうるこの世の真実があるのではないでしょうか。
むしろほんとうの真実というものは
詩でしか言えないのかもしれません。

詩という絶対的なフィクションの中でこそ存在できる絶対的な真実。
それは
どんな権力や暴力も邪魔することはできない絶対的な自由でもあるはず。

ところで私は一篇だけ小説を書いたことがあります。
病のためにみずからの元を去っていった恋人が
一人臨終を迎えている高台の部屋へ向かい
女が様々な回想をしながら坂をのぼっていくという物語。
そのタイトルが「坂」だったことを
「ハッキョへの坂」と二十年以上の時をへだてて
ふと思い出しました。