翌22日は、当初の予定では
詩人尹東柱の故郷である明東村や東柱のお墓、
そして隣接する龍井市を訪れるつもりでしたが、
あいにく雨が降っていたので
とりわけ道が整備されていない丘の上にあるお墓参りは大変とのことで
延期となりました。
その代わり、24日に予定していた市内見学をすることにしました。
まず足を運んだのは、延吉の知と文化を担う「新華書店」。
棚に揃う本の種類と多さに驚きました。
まず日本語学習のコーナーがとても充実しているのにはびっくり。
すでに述べたように
延吉は日本との交流が深く、
日本人の留学生やビジネスマンも多く滞在しています。
また逆に多くの人がここから日本へ留学や仕事に行きます。
だから必要不可欠な言語として日本語学習がさかんなのでしょう。
さらに歴史をさかのぼれば
延吉を含む中国東北部はかつての旧満州国があった地域。
当時延吉は朝鮮族と日本人が多かったそうです。
植民地における日本学校で多くの朝鮮族が朝鮮語の代わりに
日本語を学ばせられることとなったでしょう。
そのような負の歴史が今では経済や学問交流の次元では
プラス材料に転じたという面もあるのかもしれません。
(一方で、せっかく学問を身につけるために日本や韓国に留学しても、
そのまま彼の地にいついたまま戻ってこない若者も多い、
と人材流出を嘆く人もいました。)
そして私は朝鮮語のいい学習ツールがないかと
児童書のコーナーへ。
すると通路にぎっしりと座り込み本を読みふける子供たちを見てびっくり。
日本では見たことがない光景です。
第一、日本だったら書店で新本を子供が勝手に読むなんて許されないはず。
しかも漫画じゃなくて参考書なんです!!
夏休みなんだから君達、外で遊ばなくっちゃ…
しかし声をかけていけないようなはりつめた空気です。
なんでこんなに真剣に読んでいるのだろう…
もちろん子供本来の勉学意欲もあるだろうし、
それから将来海外に行くということも視野に入れて
周囲も子供に教育熱心なのかもしれません。
おごそかすぎる子供たちに圧倒されて
私はそっと幼児用の朝鮮語学習コーナーへ。
ここで絵で物の名前や数を覚えるポスターを
何枚も買いあさりました。
ところでこうした朝鮮語学習ツールが色々あるのは延吉の次のような
特殊な言語状況があるのではないかと思います。
この街でもまた
朝鮮族が多いにも関わらず、他の地域と同様に
次第に漢語がメジャーとなってきています。
そのせいか街で道を尋ねても朝鮮語はわかりにくいという人が多かったです。
しかし一方で同じ民族である韓国との交流もさかんになってきて
朝鮮語が復活してもいるようなのです。
また延辺朝鮮族自治州では
朝鮮族は学校で朝鮮語と漢語の双方を学ぶことが義務づけられているということもあります。
(つまり民族語教育がきちんと認められているという点はさすが多民族国家。
色々制約はあれど日本が見習うべき点ではありますね。)
そんなこんなで、民族の言葉は必要なものとして受け継がれているのです。
さて、お待ちかね?の詩のコーナーは右のようです。
中国全土と延辺の詩人の詩集が一緒に並んでいました。
詩の雑誌も並んでいました。
この夜にお会いする延辺の代表的な詩人石華(ソッカ)さんが編集する
「延辺文学」もずらり。
中国政府の支援できっちり毎月一号ずつ出しているようです。
しかし政府の支援だからといって内容はもちろん国家礼賛ではなく、
朝鮮民族の文学や詩を伝え残そうとする内容になっています。
少数民族として国家とはうまくやって行かなくてはならない──
しかし民族性を失ってはいけない──
その葛藤の中で頑張っている雑誌です。
(しかし葛藤こそは文学のパワーの源泉ですよね。)
日本文学のコーナーにはご多分にもれず
ここにも村上春樹の『1Q84』が。
あと東野圭吾、小川洋子などの現代作家がありました。
近代作家では谷崎潤一郎とか三島由紀夫とか。
書店の後は
昨日鉄格子が降りていて行けなかった西市場へ。
何でもあるといっていい、すごい生命力のある市場でした。
松茸も普通の野菜のように道ばたで売られていました。
とても安かったですよ。
市場で働く人々の姿はなにかすごく自然体というか、
自然体すぎてお昼寝のお姉さんも。
肉も魚も野菜も数も種類も無限にあるようでした。
知らない不思議な魚や、
「ポシンタン」(狗肉スープ)の主役犬(ケ)の肉売り場も。
(やや驚きましたが、しかしこの地方ではペット用の犬とは全く種類も名前も違うとのことです。写真は制止されました。)
無数の香辛料に乾果実にお酒、
そしてタバコの葉の売り場もありました。
昼食は市場の道ばたで売られていた春巻きのようなパンケーキのような
トウモロコシの味のした細長い何か。
(そういえば「何か」というしかないものを
この旅ではたくさん食べたなあと思います。)
これから午後は万龍珠さんと延吉にその名の通り帽子のように可愛く鎮座する
帽子(モア)山に行き、
それから夕方からは
先ほど名を挙げた詩人石華さんと延吉の夜を堪能することになります。(続)