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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

小林多喜二

昨夜、NHKでたまたま小林多喜二の特集番組をみました(「歴史秘話ヒストリア」午後10:00−11:45)。
私も昨今のブームに促され
最近初めてちゃんと「蟹工船」を読みました。
高校生の頃も少し読みましたが、
よく分からなかったという記憶があります。

しかし今読むと、
斬新な比喩、大胆な擬態語と擬音語、生き生きとした会話など、
最底辺の労働の「地獄」をリアルに描き出す
その言語感覚はとても鋭敏です。

例えば
「カムサツカの海は、よくも来やがった、と待ちかまえていたように見えた。ガツ、ガツに飢えている獅子のように、えどなみかゝってきた。船はまるで兎より、もっと弱々しかった。」
小樽高商時代詩も書いていたというそうですが、たしかに詩人ですね。
音の詩人。
今の時代に耳からつよく訴えかけてきます。

昨夜の番組でとても印象的だったのは
多喜二の故郷への深い思いです。
以下は小樽にある文学碑に刻まれた
獄中からの手紙の一部。

「冬が近くなると ぼくはそのなつかしい国のことを考えて 深い感動に捉えられている
そこには 運河と倉庫と税関と桟橋がある そこでは 人は重っ苦しい空の下を どれも背をまげて歩いている どの人をも知っている 赤い断層を処々に見せている階段のように山にせり上がっている街を ぼくはどんなに 愛しているか分からない」

この文章が番組の中で読みあげられた時
とりわけ「どれも背をまげて歩いている どの人をも知っている」
に感動しました。
獄中にいるのに
まるで今故郷でうつむき歩く人々の顔を幻視するかのように
「歩いている」「知っている」と進行形で止めている。
これを書いたその時
暗い監獄の闇の中で
故郷・小樽はどんなに輝いて見えたことでしょうか。

他者の尊厳と他者とのつながりのために
身を挺して書き続けたこの詩人について
もっと知らなくてはならないなと思いました。