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詩空間

河津聖恵のブログ。この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

詩「三月のピノキオ」(「PO」145号)

「PO」145号に作品を書きました。Po

三月のピノキオ
                           河津聖恵  
 

 ��空の鐘�≠ェ響く
 茂みの中で人形たちは身をふるわせる 
 ユキヤナギの沈黙の鈴は沼の水面にさやぎ
 伐りたての木株は白く不安なお喋りを止められない

沼に沈みかけた小屋
永遠に傾いている世界
あの日机とともに壁に打ちつけられ
私はどうなってしまったのか
まるで死んでいるように茫然とし
まるで生きているようにとても寒い
私を作りかけたまま
凍った影になって床に横たわるおじいさん
弦のない弦楽器(たましひ)の重さを抱きしめ
今も深い奈落へ落ち続けているおじいさん
もう一度起きて
あの時入れられなかった青い目を入れて下さい
そしてどうか私の名を呼んで下さい
そうでなければ私は泣くこともできないから
鐘の音にふれられた鼻が
野放図な蔓のように空虚へと伸びてしまうから

 ��空の鐘�≠ェ響く
 地上に散らばった欠片という欠片が目を覚ます
 岸辺のレンギョウの指が
 水深く世界のスイッチを探しあぐねる
 うたえない水鳥たちの冷たい嘴が悲しみの波紋を拡げる

小屋は沈みかけ
世界は永遠に傾いている
おじいさんは死んでいる
なぜ誰も助けにこないのか
小屋は心そのもののように目にみえないからか
ボートが次々とそばを通り過ぎていく
��空の鐘�≠ヘ夕暮れとともに
ヒヤシンスの暗い香りに変わり
今私は星のようにひとりぼっちだ
生まれたばかりでとても寒く
死んだばかりで茫然としている
誰が私をのぞんだのか
何の似姿であることを願ったか
おじいさんは真実を握りしめて息絶えている

人が人形になる三月
嘘と真実が引き裂く傷口から 太古の血潮があふれれば
人形が人となるかもしれない 春三月