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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

詩「石巻(一)」

石巻(一)
                       河津聖恵

ここに私たちがやって来たのは
どのようないきものの意志によってか
連れて来られたのは石化した魂か
影の傷から影の血をしたたらせる影の死体か
光に磔にされたい
そう願ったのは本当は誰だったか
かたちをなくしたことばを
ふたたび象られるための痛みが欲しい
細胞の奥から吠え続けているのは何者か
坂を降りた人々は
門脇・南浜地区の砂まみれのけもの道を
群れからはぐれた犬のように
ふたしかな足取りで黙り込んで歩いた
炎天下の瓦礫の原に
うっすらつくられた道を
向こうから歩いてくる者はいない
ここは巨大な孤独だ
事物の果てしないコミューンだ
人形、ビデオテープ、携帯電話、鞄、本、CD、アルバム、コーヒーカップ
主の代わりに死に
主の代わりに生きているもの
潮の(神の、とはいわない)ブリコラージュは
放棄でも収集でもない
拒むのでないならどのように誘っているのか
踏みしだくのでないなら
私たちはどのように慈しみたいか
見渡すかぎり眼のないものはあふれ
生きているのがどちらか分からなくなる
家々のくりぬかれた眼から
たえず叫びの涙があふれ
二階の白いカアテンが揺れる窓の内側は
宇宙の暗やみをたたえている
救いをもとめているか
あるいは救おうとさえしているのか
(救難されるべきは、もはや私たちか)

360度、死者はどこにもいない
死者が憩える陰翳は気化したままだ
もっと、もっと生者が
生者という血が欲しいのだ
歩み、うろたえ、立ち尽くす人間の
悲しみと怒りと不安
声にならないことばとことばにならない声 
そして瓦礫をふうわりと覆う
ゆるめられた時間の曲線のような
ひとりびとりの純粋な黒い影と