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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

山口の旅�A中原中也記念館と秋芳洞

3日は、まず宿泊していた湯田温泉のホテルの近くにあるImgp0052
中原中也記念館に行きました。
この記念館を訪れるのはじつは二回目。
前回は2003年秋に合宿形式の詩のイベントの打ち合わせの際に立ち寄りました。
生家である中原医院の跡地に建てられている瀟洒な記念館です。
今回は、ちょうど昨年、雑誌『環』に中也についての小論を書いたので
掲載号を館長の中原豊さんにお渡ししました。
中也論を記念館に収めてもらうことで、
何かまた少しこの、近代において最も美しいうたをうたった詩人(あるいは、うたを封殺していく近代化に対して「詩といううた」によってに抗った詩人)に
近づけた気さえしました。

展示では、原稿に残された中也の端正な筆跡に感動しました。
ことばを白紙に書きつけるということが
この詩人にとってどれだけかけがえのない行為であったのかが伝わってきます。
生涯をあらためて辿ると、
小林秀雄大岡昇平や安原喜弘や河上徹太郎など、
誠実ですぐれた友人に恵まれていて、それらの友人がいたからこそ詩人の実像があまねく人に伝えられたのだとつくづく感じました。
企画展示は1981年に101歳で亡くなった母親の中原フクさん。
80年以上もお茶を続けていたそうです。
フクさんにとってお茶を点てる時間は無上の時間だったそうですが
それは中也にとっての詩作の時間と同じものだったのではないかと思います。
あの中也が「名辞以前」(ことば以前)と名づけた永遠の時空をも
思い起こさせられます。

中也記念館を一時間程度見学してからImgp0075
湯田温泉を出て秋芳洞へ行きました。
生まれて初めて入る日本一の大鍾乳洞。
入る前は「閉所恐怖症にならないか」と少し心配していましたが(私は閉ざされた所にいると、パニック中枢がやや刺激されます)、
不安とはうらはらに
その果てしなくつづく石の地下空間を歩くうちに
自分の中に思わぬ解放感が拡がっていくのに驚きました。
石の千枚田や滝や富士山・・まさに地下にあるもう一つの世界です。
中学生の頃、エドガー・ライス・バローズのSF小説『地底世界ベルシダー』シリーズを夢中になって読んだり「地球空洞説」という怪しげな説を本気で信じたりしていましたが、
恐らくその時と同じわくわく感でした。
地下という場所は恐らく無意識を深く触発するのです。
あるいは闇の中に石のように永遠に包まれていたいという
胎内回帰願望だったのかもしれません。
もしくは蘇生願望だったのでしょうか。