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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

アルチュール・ランボー「谷間に眠る男」

最近ランボーの「谷間に眠る男」という詩に
感銘を受けました。

16歳。1870年10月に書かれた詩。
つまりちょうど140年前の今頃書かれました。

家出のさなかに遭遇した
普仏戦争の激戦地の悲劇の情景を描いたものです。
ひとしれぬクレソンのざわめきにつつまれて眠る死者は
帽子をかぶっていません。
そのうなじの冷たさを私はかんじます。
「自然よ あたたかく揺すってやれ 寒いのだから」
という思いやりに感動しつつ、死者の寒さを痛感させられます。

死者の寒さにするどく気づいたランボーの優しさと正義感に感動します。

そして先日ここで紹介した吉野弘の「生命は」と深く通底するものをかんじます。

以下、引用します。
(キーボードで詩を書き写すのが私は好きです。指から詩がしみとおってくるようです。)

谷間に眠る男
                   アルチュール・ランボー(宇佐美斉訳)

ここはみどりの穴ぼこ 川の流れが歌をうたい
銀のぼろを狂おしく岸辺の草にからませる
傲然と立つ山の峰からは太陽が輝き
光によって泡立っている小さな谷間だ

若い兵士がひとり 口をあけて 帽子も被らず
青くみずみずしいクレソンにうなじを浸して
眠っている 草むらに横たわり 雲のした
光の降り注ぐみどりのベッドに 色あおざめて

グラジオラスに足を突っ込んで ひと眠りしている
病んだ子供のようにほほ笑みながら
自然よ あたたかく揺すってやれ 寒いのだから

かぐわしいにおいに鼻をふるわせることもなく
かれは眠る 光をあび 靜かな胸に手をのせて
右の脇腹に赤い穴がふたつのぞいている
                                                                                          (1870年10月)