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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

黒い光

ずっと前に書評を頼まれていながら、いまだ読了していない本(Tさん、ごめん、もう少し待っImage636 て下さ い・・)ですが、アルフォンス・リンギス『汝の敵を愛せ』(中村祐子訳、洛北出版)は面白いです。リンギス(1933〜)は、アメリカの哲学者で、世界の様々な土地で暮らしながら、鮮烈な情景描写と哲学的思索が絡みあった、独特の魅惑がある文体の著作を著しています。この本は、情動という動物的な力の可能性を、様々なテーマと角度から追求していていますが、とにかく言葉の力が素晴らしく、すみずみまで力強い詩性を感じます。

これまで読んだところで、昨日の「愛と痛み」に関連し、とりわけ私が深く感応したところを紹介します。私はここに出てきた「黒い光」という撞着語法に、一瞬で捉えられてしまいました。まさに詩的イメージです。痛みという、一般的にネガティヴな感覚に、アグレッシヴな力を与えるとても素敵な言葉ではないでしょうか(魅惑されついでに、私は先日「黒い光」というタイトルの詩を書いてみました)。

「深く能動的な感受性のなかで痛みは黒い光を発し、その黒い光はすべての苦しむ人々に哀れみの目を向けさせ、哀れみの手を差し伸べさせる。嘆きや悲しみは、私たちが他者の痛みや死に対して開いていく能動的な道である。私たちが自分のことを越えて嘆き悲しむとすれば、それは、いつも自分が通る道を越えたその向こうに、他者の嘆きや悲しみに通じる道を切り開くことによってである。嘆きや怒りは、よく管理された私たちのアパートメントの上と下に、崇高な天や途方もない深淵を開いている。その天や深淵では、サヘルで飢餓に苦しむ人々や、バングラデシュのサイクロンに呑まれる人々の顔が見え、ハチドリが毒で汚染された空から墜落するのが聞こえ、私たちは焼けたアスファルトに生えたスミレに涙を流しながら水をやる。嘆くのは、勇敢さであり、力であるのだ。」

痛みは、私たちの黒い光にみちびかれることで、他者の痛みに通じていく。
私的な痛みは、普遍的な痛みになる。力になり勇気になる。
黒い光という反転したエネルギーを、私の痛みの中からもかき立てていけたらと思います。