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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

本日付朝日新聞朝刊「脱原発で東北ビジョン語れ──日中韓からG8へ」

 大震災と原発という未曾有の災いを、諸国と結んで福に転じるべき。外にひらかれていく気概と勇気と気迫こそが、今試されています。菅首相、G8では本来の力を思いっきり発揮してきて下さい。────────────────────────────────────────────────────────
本日付朝日新聞朝刊座標軸
 脱原発で東北ビジョン語れ──日中韓からG8へ    主筆 若宮啓文  
            
  韓国の大統領が日本人の節制をたたえ、中国人研修生たちを救って命を落とした恩人を中国の首相が悼む。日中韓のトップが東北の被災地を訪れた今度の首脳会談は震災の復興を力づけただけではない。88年前の悲劇を思えば、その歴史的な意味はいっそう際だってくる。 関東大震災のパニックの中、数千人とされる朝鮮人に加えて多くの中国人も虐殺された事件のことだ。世紀を大きくまたいだ歴史の転換に感慨が深い。
 こんどの大震災は世界中の大きな同情や被災者への称賛を呼び、想像を超えるほどの支援や声援が寄せられた。お互いにこんな空気はぜひ育てたいが、その意味でも関東大震災には苦い教訓がある。
 「日本を救え」と米国で寄付を呼びかけたポスター類。フランスから届いたメスなどの医療器具……。あの時の救援ムードを今に伝える品々が、東京・両国の復興記念館に並んでいる。欧米の国々に加えてえて辛亥革命後の混乱にあった中国からも各勢力から競うよう物資が送られた。「感銘すべきこ海外列国の同情である」(大阪朝日新聞)として、国内にも国際協調の機運が生まれたものだ。
 協調ムードの反動
 だが、長続きしなかった。翌年、米国で日本からの移民を拒む排日移民法が成立して対米感情が暗転.震災後の社会不安や不況、そして不毛の政争も手伝って軍部が台頭し、やがて満州事変から中国侵食、そして太平洋戦争へと向かっていく。震災による協調ムードの反動が表れたかのような展開だった。
 いまもまた不安な火種は少なくない。中韓やロシアとの領土争いは震災支援の下で新たな感情の行き違いも生み、いつ再燃するとも限らない。東北の工場が大打撃を受けるなか、受注が増える中国などとの明暗も不穏な要素にはならないか。
 収拾に展望が開けず、透明性に疑問だらけの原発事故は各国のいら立ちを生み、時に日本への怒りにもなる。一方、放射能を恐れる外国の行き過ぎた輸入規制は日本の悩み。先行き不安が尽きない国民には政治の弱さと見苦しさにやり場ない気持ちが募る。よもや戦争はないにせよ、もやもやした社会の空気は関東大震災後と似ているという歴史家たちの指摘もある。
 福に転じる気概を
 そんな中で、菅直人首相は今週、フランスでの主要国首脳会議(G8サミット)に向かう。そこで明らかにすべきは次のことだろう。
 まず、世界の支援への深い感謝、そして地球への貢献でそれに報いる決意だ。その一歩として、復興のため削ってしまった政府の途上国援助(ODA)予算を、苦しくとも来年度からまた増やすと宣言するのがよい。
 原発事故の不手際をわび、各国の力も借りて収拾を急ぐことも肝心だ。事故と処理の検証は国際的な目も入れて厳しくオープンに行い、世界での再発防止に必ずや役立たせたい。
 ヒロシマナガサキに加えて今度のフクシマだ。開催国フランスに気兼ねしすぎず、世界有数の地震国として「脱原発」の国造りを鮮明にするのがよい。太陽光や風力を軸に「東北を新たな自然エネルギーの供給の場に」と国会で語った菅首相は、そんな「東北ビジョン」を世界の実験とすべく、技術や資金の投入を呼びかけてはどうか。
 内向きにも弱気にもならず、外国と結んで災いを福に転じる気概を示すこと。それが首相の役目に違いない。