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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

3月6日阪本浩子さんとの共同朗読会「詩と朗読と音楽のひととき」in紀南ツアーデザインセンター

3月6日は午後二時から、熊野市にある「紀南ツアーデザインセンター」で、阪本浩子さんとの共同朗読会「詩と朗読と音楽のひととき」を行いました。阪本さんは熊野市の作Pc230083家中田重顕さんの散文作品を朗読しました。
 同センターは、明治20年に立てられた、木本地方特有の旧家だそうです。私もこれまで何度か訪れたことがありますが、とても心の落ち着く、しっとりとした風情ある空間で、ここで朗読会をすればきっと声は柔らかく木の柱や天井に吸われていき、春には庭園から聞こえるうぐいすの声と呼び合ったりして、すごく素敵だろうな、と思っていたものですから、今回、中田重顕さんのご尽力で実現でき、夢のようでした。
 お昼前に着くと、会場はもう、六〇名を超える観客のための座布団や、機器がきちんとセッティングされていて、美しい女性の職員の方々がこまめに動き回っていました。以前も来た時にも感じたのですが、ここのスタッフの応対は本当に気持がよく、訪問者にはここの古い釜で煎ったおいしいお茶を丁寧に出してくれ、またどんな疑問にも答えてくれます。若い方々なのに、熊野の古い文化や伝統を愛してやまないオーラが言葉や所作のそこここに光っいるので、お話ししていて、熊野好きのこちらもすごく嬉しい気持になってきます。Pc230088
 少し曇り気味でしたが、そんなスタッフに支えられた会場の空気はとても澄んでいました。
 初めてお会いする阪本さんは、素敵な着物姿。ご挨拶した時、会釈していただいた所作にも優しさが滲み出ていて、こんな方と共演できるならば、もう今日は大丈夫だと一瞬で安心したのでした。リハーサルでも、哀切感のある中田さんの散文作品を朗読する、元アナウンサーである阪本さんの何ともいえない、情愛あふれながら透明感のある声に感動。中田さんの作品は内容と共に、日本語の美しさが特徴ですが、それをさらにいきづかせる阪本さんの声の力です。
 今回は、それぞれの朗読に伴奏がつきました。阪本さんは、お嬢様の岡出睦美さんのエレクトーン、私は、キム・ジュヒュさん(『朝鮮学校無償化除外反対アンソロジー』の共同編集者であるホ・オンニョさんのご主人で、オンニョさんも今回同行してくれました)のフルートです。
 午後二時が近付くと、会場はもう満員(定員50名のところ、60名まで増員しましたが、あとから申し込んできた20名お断りしてしまったそうです。ちょっと残念)。会場は満員となりましたが、(昨年の熊野市立図書館での朗読会でも感じたのですが)観客のPc230087方々の雰囲気にとても温かで優しいものがあったので、私もあまり緊張をしないですみました。
 原稿を入念に準備されていた司会の方の進行はとても丁寧で、心のこもったもので、それもいい時間にしてくれたようです。
  朗読は私と阪本さんが交互に行いました(それであまり疲れないですみました)。まず、私が「鳳仙花のように」と「獅子岩」を朗読。それから阪本さんが、中田さんの「泊観音堂の女学生」(けなげな信仰心から観音堂を護った女学生の話)、「神隠しの里」(熊野の山で実際あった神隠しの話)語ります。それからまた私が「新鹿一」と「新鹿二」と「補陀落二」を朗読後、阪本さんが「満州のひまわり」(旧満州生まれの中田さんの幼年時代の苦難を語ったもの)と「流れ谷のお盆」(盆踊りの歌も交えて)、そして私が最後に「田辺」と「波田須」で締めくくりました。
 阪本さんのしっとりとした声に、岡出さんの柔らかなエレクトーンはほとんど一体化していましたし、私の朗読にも、キムさんは、大阪でリハーサルした時以上に、音量的にも時間的にもうまく合わせて下さり、両者ともいい出来だったのではないでしょうか(私自身の朗読には色々反省点はあれ)。
 全作品に合わせて、中田さんが作成してくれた写真と文章のコラージュのパワーポイントも、朗読を聞くという体験を立体的にしたと思います。作成にはとても苦労されたそうです。昨年の朗読会でも作成してくださったのですが、朗読の理解を助ける視覚的な手段として、中田さんのこのパワーポイントの右に出る方法はないでしょう。

 二時間という長時間、休憩もない中で、しっかり耳と目をこらしつづけて下さった観客の皆さんには、ただただ感謝。同行してくれた田辺市の倉田昌紀さんも、熊野市を中心とした紀南の人々の優しさに感激していました。私も、しっとりとした奥深さとゆたかな文化力のあるこの地方の人々固有の魅力をさらに実感しました。たくさんの方々に励ましの声をかけていただき、また詩集を買っても貰いました。終わってからも、そして今も、靜かな感動が続いています。