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詩空間

河津聖恵のブログ。この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

京都国立近代美術展「青木繁展──よみがえる神話と芸術」

昨日、京都国立近代美術展で「青木繁展──よみがえる神話と芸術」を見てきました。Image1454_2
暑さもあり、閉館まで時間もなかったので、一つ一つじっくり見る集中力はやや続かなかったのですが・・・。

しかし有名な大作「海の幸」はじっくり見ました。
1904年、東京美術学校を卒業した青木は
友人たちと恋人の福田たねと連れだって
房総半島の布良海岸で約一ヶ月半滞在した間に
海を題材としたすぐれた作品をいくつも制作します。
「海の幸」もその一つ。

28才で亡くなり、生前は余り世に知られなかった青木ですが
(1882年生1911年没で、私の詩集『新鹿』の表紙装画の原勝四郎より4つ年上)
この大作に取りかかっていたときはすごく興奮していたようです。
私もこの作品は印刷物では何度も見たことがあるのですが
本物は初めて。

縦70.2�p横182.0�pの本物はやはり素晴らしかったです。
画面が静謐ながらも躍動感がありとても生き生きとしていた。
ところどころデッサンやグリッドの線描が残っていたりして未完成的でしたが
それも意図されたものという説もあるようです。

裸の男たちが
大きな銛と神の使いのような鮫をかついで
朝日を浴びて行進している。
画面の神話的で古代的な静謐さから
おだやかで力強い波音がきこえてくるようです。

他にも同時期に描かれたモネを想わせるような海の絵の波も
同様に素晴らしく繊細な筆致で、たしかに「目で見る音」を感じました。

群像の中で一人だけこちらを見ている白い顔があります。
かつて印刷物でこの絵を見たとき
何とも言えない胸を打たれる微妙な表情で
こちらに一人だけ気づいている女性はいったい誰なのだろう
と不思議に思っていました。
今回、身体の部分を見ると男性として描かれているのと分かりましたが
顔はたしかに女性のものです。
解説によればそれは恋人でやはり画家のの福田たねだろうとのことです。

二人には子供がいましたが結婚はしませんでした。
その事情は今日読んだ年譜からはよく分かりませんでした。
しかしこの絵の人物の表情を見ると
描く者に特別な想いを持つ存在であることが分かります。
恋人に気づいた女性の顔にしか生まれない微妙な表情。
困惑と喜びと悲しみのないまざった。

しかしこの絵の次の瞬間には
この人物も行進する群像の一員として横を向き
恋人を置いて去ってしまう運命にあるのだと感じます。
運命に捕らわれている者が一瞬、こちらを見て、秘かに何かを告げている・・・。

二人がいなくなってから遥かな未来である今も
(青木が亡くなってからは百年です)
顔はまだこちらを見ているというのが切ない。
この世にもう恋人はいないのに。
あるいは見る者に二人の愛を忘れないでほしいという思いで
私たちに別れを告げているのでしょうか。