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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

映画『軽蔑』(監督廣木�驤黶jをみてきました

映画『軽蔑』(監督廣木�驤黶jをみてきました。
高良健吾のカズは美しく、鈴木杏の真知子はキュートでした。

全体として中上健次の小説を、時代の雰囲気と共に
そつなくビジュアル化していると思いました。
時代は1980年代(時折「au」など現代的な看板があったり、矛盾があるのは仕方がない)。
あのバブルな新宿のきらめきが
ベタな感じでうまく描かれていました。
ときおり懐かしい憂歌団のブルースも流れて。

しかし原作は中上健次の最後の小説。
渾身の筆致で、恋愛の心理の細部のひだまで描き尽くされています。

映画は、時間の制限もあってか、
小説にあった色々な心理的な仕掛けや象徴が
残念ながらそぎおとされていました。
その代わり、喫茶アルマンの炎上シーンや、山畑の銃殺シーンなど
原作にはない過激な暴力の要素がまざりこんでいた。
しかしその辺りはサービスが効き過ぎ
B級の大衆映画の仕上がりになっちゃったかな、と少しがっかり。
たしかに小説のあらすじだけを(といっても映画は必ずしもあらすじの通りではないのですが)追うのにせいいっぱいだと、どうしてもこうなるのでしょう。

映画は映画、小説は小説。
媒体や形式、つまりそれぞれが用いる「言葉」が違うのであれば
その溝を埋めるのは難しい。

ただ、小説は真知子の視点から描かれていたはず。
映画はもう少し真知子に寄り添って、
真知子が見る世界をこそ映し出してほしかったです。

とりわけ冒頭に出てくる階段を二人で降りていくシーンは
どんな風に映像化するのか期待していたのですが。
このシーンは
真知子という天使が重力にとらわれていくという大切な意味があるのに
けっこうあっさり通過してしまっていて残念。

あと、最後の結末も原作とは全く違っていました。
あまりにありがちに変えてしまったのでは。
カズの死後、
新宿の踊り子に戻った真知子のくるおしい狂気の始まりのような
原作のラストの方が
遙かに映画的だと私は思いました。