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詩空間

河津聖恵のブログ。この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

愛沢革『石のいた場所』(土曜美術社出版販売)

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春から夏にかけて送って頂きながらそのままになっていた詩集群をようやくじっくり繙く気力が出てきました。

愛沢革『石のいた場所』(土曜美術社出版販売)。
一昨年出た『空と風と星の詩人 尹東柱評伝』(宋友恵訳、藤原書店)
の訳者による第一詩集。

まず表紙カバーの、全面を使った写真が鮮烈です。
名前の書かれた石たちの磁力=呪力に
それが何だか分からないままぐっと引き寄せられます。
中央に立ちすくむ箔押しのタイトルと名前は一見見えづらく
表紙を光の方へ向けることでふいにくっきりみえてくる。
その仕掛けが凄く印象的です。

タイトルにもある「石」は詩集のテーマです。
石は「物言わぬ」ながら「長い年月のあいだにそこから溶け出すなにか」
が土の滋養になり
生命を育む存在であると「あとがき」にあります。
そのような石のイメージにはもちろん
京都に留学中にハングルで詩を書いたかどで逮捕され
解放直前に福岡で獄死した尹東柱の詩への
愛沢さんの思いが込められているはずです。
東柱は
「平明な表現でありながら、みずからの歩むべき道をしずかにうったえるひびきで、われひとへともに問いかけるよう」なすぐれた「詩の石」を私たちに残しました。
この詩集には多くの石が登場しますが
すべて過去から今ここへ押し出されてきた
無言の伝言者なのです。

この詩集は
韓国の民主化闘争の中で投獄された徐勝、徐俊植兄弟を始めとする
多くの文人の救援活動に参与し
その後韓国の大学で韓国語を習得して
今では彼地でも信頼される翻訳家として知られる
愛沢革さん自身の半生(父への思い、ソウル留学中の体験、息子との葛藤、土と格闘する現在の生きざまなど)から
それこそ石のように滲みだした詩のことばが並びます。
そして石のように寡黙ながら
熱く確かな魂のありかを感じます。
とてもすぐれて人間的な詩集だと思います。

以下全文引用する「石とリボン─旧紀州鉱山を訪ねて」という作品は
昨年出た『朝鮮学校無償化除外反対アンソロジー』に寄せられたもの。
熊野市で行われた
戦時中旧紀州鉱山における強制労働の最中に亡くなった朝鮮人たちを慰霊する
追悼碑除幕式での情景を描いた作品です。
表紙カバーの写真は実際慰霊祭で石たちを写したものです。

青いリボン――旧紀州鉱山を訪ねて
                                                                        愛沢 革
  

  山すその桜は満開、渓谷を流れる川は澄み、春霞のなかをた
  ゆたいながら、春爛漫のひかりをみせる。だが、紀伊山中の
  三県のあわいめにある小さな田舎町めざして、くねくね曲が
  る峠みちにさしかかると  

空は厚い雲に覆われ
湿った風が舞いはじめた
熊野古道に近い豊かな森林と
いにしえからの人びとの信仰ふかい郷土の奥に
トンネルが掘られ銅の鉱山がいとなまれたその山里の一角
追悼碑除幕のおこなわれるその場に
人が両手で抱え持てるほどの重みのある自然石三十二個が
列をなして置かれている

はるかに玄海灘の向こうから
この地に連れてこられた人びと
夜の寝入りばなを襲われ
戦時の朝鮮人の義務と脅され そそのかされ、
サーベル下げた警官の靴に蹴られ
奴隷のように船底につみこまれ運ばれ
この地で働かされた
一九四〇年から一九四五年までに
のべ一三〇〇人を超える朝鮮人

連行されてから一ヶ月でいのちを失くした人
逃亡の途中でいのちを奪われた人
けがや病気衰弱の治療もされず放置されて亡くなった人
それら朝鮮人一人ひとりの無念を想い
伝手(つて)をたぐって探し求め
辛うじてその名の
一文字だけでもわかった死者を含め
かつては生きていたその人を表わす字が描かれた
三十二個の石たちが

ここに来るはずのなかったいのちを
ここで失う破目におとしめられた
その人の苦渋の重みを
なにほどか託された石の重みが
それぞれの喜びや絶叫
肉親や郷土への思いを込めて
色合いも形もちがう石の個性が
この鉱山で働かされ
むざむざ日本人に奪われた
三十二のいのちが

一つ一つに青いリボンを結ばれて置かれていた

リボンの結ぼれを
参加者一人ひとりが前に出ていって解く行為に
なにが託されているのか?
そのとき雲は不穏な動きを見せ
渦巻くように風をこもらせる
生者は宙ぶらりんとなった
いのちを感じる

石に託された死者の恨(ハン)が解けるものか?

だがリボンの結ぼれを解いたわたしは
解かれた石に託されたその人
「◯鐘連(ジョンニョン)」という人のいのちと
不思議な縁で結ばれた
◯鐘連! あなたの恨が解けるまで
真相をつきとめ広めていく
人生のような道のりの
縁をむすぶ

紀州鉱山 紀伊半島の南部にある三重県熊野市(旧紀和町)で石原産業が経営していた銅鉱山。その鉱山事務所跡にある熊野市営の鉱山資料館には朝鮮人が働いていたことを示す展示はない。市民団体・紀州鉱山の真実を明らかにする会の資料による。