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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

ハッキョ(四)(「東柱を生きる会」オプショナル・ツアー)

見学をひととおり終え
校長室で金先生や他の先生方も交え、お話をしました。
朝鮮学校の歴史や今置かれている状況を説明していただいたあと、
ふと尹東柱の話題となりました。

先生方は前日の「東柱を生きる会」についてもご存知だったようで、 P2050004
(この日のために東柱のビデオなども観て下さっていたそうです)
会の様子などを訊かれてから、
金先生から私に

「「プロメテウス」というあなたの詩を読ませてもらいましたが、
 東柱にとって「プロメテウス」という存在は何だったと思いますか」

と不意を打つ問いかけが。

「プロメテウス」。
それはブログ(1月24日付「東柱の話(二)」でも紹介しましたが、
2007年に私が文藝春秋のために書いた詩です。
その詩を2009年に「朝鮮新報」で
文芸評論家の卞宰洙氏に取り上げて貰ったことがきっかけで在日の方々と知り合い
今回の「東柱を生きる会」が立ち上がりました。
だからいわば出会いをもたらしてくれた運命的な作品とも言えます。
その表題「プロメテウス」は東柱の詩「肝」にあったギリシアの神の名前です。

金先生の問いかけに私はしばらく口ごもってしまいました。

大まかに言えばあの詩は
「肝」で三度繰り返された「プロメテウス」という絶望的な呼びかけに
心が揺さぶられた経験と
詩を依頼された頃自分自身にも小さな絶望感をもたらす出来事があったという事実を
「プロメテウス」という名に響き合わせるように作った詩でした。
そしてその名で東柱を知ってゆこうとする自分をも名指しました。

そのようなことを思い出した私は
「人間を作り火をもたらす希望の存在であるとともに
一方で禿鷹に食われ続ける絶望にさいなまれる
両義的な存在ではないでしょうか」
というように答えたかと思います。

その答えにうなずきつつも先生は
「でもプロメテウスはヘラクレスに救われますよね
東柱はヘラクレスのような力ある存在になりたい
と願っていたとはいえないでしょうか」
とふたたび問いかけました。

ヘラクレス
それは自分の外部にある思いがけない力の象徴です。
たしかにプロメテウスは
自分自身の力で肝臓を再生させることで生き存えますが、
最終的にはヘラクレスという外部の力で救われます。
内側からの力が外側の力を呼びよせたように。
あるいは外側の力がまずあって
内側からの力を引き出したのかもしれません。

いずれにしてもそうした
内部の力=プロメテウスと外部の力=ヘラクレスとの相互作用が
人を生かしていく根源的な力となるのではないか。
先生はそう問いかけたのだと今気づきました。
そのときは「この方は詩人だなあ」なんて
またしても脳天気なことを思っただけでしたが、新しいテーマを頂いたのでした。

そんなこんな
今回の訪問・見学は日々読んだり書いたりしてばかりの私にとって
見聞を拡げただけでなく、
思わぬ角度から感受性を触発してもらった素晴らしい時間でした。

校門を出る私たちにいつまでも手を振ってくれていた先生方の小さな姿は
詩の核のようにみなの胸に残されました。