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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

天使に会いたくて──「パウル・クレー おわらないアトリエ」(京都国立近代美術館)

「戦い」のあいま、京都市国立近代美術館で開催中の「パウル・クレー おわらないアトリエ」Image1256 を見ました。180点もの絵をテーマ別に展示した充実した内容だったので、三時半に入り、五時までの一時間半では、じっくり見るにはやや無理でした。

しかし本物のクレーの色彩やフォルムのリズムは、久しぶり心をはずませてくれました。それぞれに重いテーマが隠されていても、重さを感じさせない、まさにそれぞれが天使のようなイキモノとなって、私のまなざしと軽やかにダンスしてくれたのでした。

フォルムをはぐらかしたフォルム、奇跡のような即興的な色遣いや線描、そこにひそかにしのばせられた様々な魔法のような仕掛け、まさに詩のようなタイトルが、あいまって、絵というより小さな交響楽のように一つ一つの絵でいきづき、それぞれの絵でいつまでも立ち止まっていたいと思いました。

本当に本当にすばらしい絵ばかりです。

しかしふと、絵に現れたダビデの星が目を惹きました。「船の凶星」という1917年の油彩転写絵ですが、なぜダビデの星なのか、と気になりました。クレーの年譜によれば、彼はユダヤ人ではありませんでしたが、1933年ヒトラーに追放されます。ドイツ革命でも革命に参加したようですが、ラディカルだったこと、そしてこうしたダビデの星なども目をつけられたのでしょうか。 1937年には「頽廃芸術展」でナチスは彼の絵を展示します。

「来るべき者」(写真)はヒトラーが首相演説した1933年に描かれたものです。これは、クレーが予感した未来の姿なのでしょうか。とても可愛らしいのですが、それだけに、子供たちの運命をも表しているようで、ゾッとします。

ベンヤミンの「歴史哲学テーゼ」にも出てくる「新しい天使」を探しましたが、今回はありませんでした。「かれは顔を過去に向けている。ぼくらであれば事件の連鎖を眺めるところに、かれはただカタストローフのみを見る」という、進歩の大風に未来へ背中を向けながら吹き飛ばされる無力な天使です。そんな天使になんだか無性に会いたかったのでした。