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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

辺見庸『生首』

詩がうたうのは希望か、それとも絶望か。Image620
それとも両者が渾然となった、乳白色の闇で戯れるのか。
あるいは詩を書くという一種超絶した行為においては
三者の分け隔てなどなく
希望は絶望へ、絶望は希望へ
乳白色の闇を滲ませあられもなくうらがえるのか。

というように、読んでしまえば恐らく誰しも
その語り口に遥かに憑依されてしまうだろう詩人、
辺見庸さんの詩集『生首』(毎日新聞社)が出ました。
この国で良識を持ちこたえようとするがゆえに
大きな絶望と小さな希望に今立ち眩む人々にぜひ読んで欲しい一集です。

ここには絶望というより
言葉がフェイクな希望を振り切っていく試みの果てに
詩がただ絶望の裸形として、魅惑的に立ち尽くしています。
絶望でなく絶望さえ突き抜けた裸形の詩が。

辺見さんと言えば約三年前
京都の丸太町にあるクラブメトロで講演会がありました。
病を押して(あるいは病ゆえの力で)三時間を語りきった。
死刑囚について。ベトナム戦争にいて。この世界の矛盾について。
闇の中であまりにも強く深く訴えられた聴衆は
そのインパクトにかなり動揺させられました(泣いていた若い子もいた)。
鮮烈に亀裂を入れられた夜となりました。
辺見さんが登壇する際に流れていたCCRの「雨を見たかい?」は
ナパーム弾の煌めきをうたっているものですが、
あの夜以来私の愛聴曲ともなりました。

曠野はまだ幽かに燻っている。
残夢がいまなお問うているのだ。
誤りかもしれぬと承知で
なお深く くみしえたか。
その問いに幾たび
蒼ざめたか。
骨まで蒼ざめたか。

つまり
誤りのために
すべてを賭す気があったか。
言ったかぎりのことを
一身に負う気組みがあったのか。
殺(や)る気はあったのか。
その問いに幾たび
蒼ざめたか。
骨まで蒼ざめたか。

後ろ影が遠ざかる。
はるかに遠ざかる。
闇に空足をふむ。
                      (「残照」の第三連から第五連)

このように、この詩集は、某国の首相に贈るのに勿体ない位タイムリーな詩集です。