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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

ひとは一つの詩とともに

ひとには生まれた時から、そのひとを見守る一つの神がいると聞いたことがあります。
倶生神(くしょうしん)と言ったかと思います。
ドイツ語の「ゲニウス」もそのような神を指していたのではないかと記憶します。

誤解を恐れずにいえば、
詩もまた、一人のひととともに生まれる存在ではないでしょうか。
あるいはひとは一つの詩とともに生まれる者ではないでしょうか。

金時鐘さんは『わが生と詩』で「みんなが詩を持っている」と書いていました。
詩が特権的なものではなく、ひとが生きて輝く、その輝きだとして。
私はずっとその詩観に感銘を受けています。

私たちを見守る詩。そして私たちが、生きてその輝きを実現していく詩。
書くという次元を越えた、ひとりひとりの生命を奥深く輝かせるもの。
これまで生きたすべての他者のコトバをはらむ闇から、
あるときふいに流れ星のように贈られ感受されるもの。

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「ひとは一つの詩とともに生まれてくる」
                                                    
ひとは一つの詩とともに生まれてくる
燃えるたった一つの詩に照らされながら
怒った真っ赤な額で産まれてくる
(でも星座のように読むことができるのはそのときだけだ)
永遠に読むことのできない詩のために
私たちはいやがおうでも生かされていく
権能者ではなく 孤独な書き手でもなく
むさぼりのためでなく 口実ではなく
自身の牢獄を磨いてみせることもなく
ただ詩とともにあるということで生きる・生かされる(私たち詩の囚人か、ともがらか)
あかあかと詩の尽きるとき一閃で消える(祝祭か、とむらいか)
私たちが去れば宇宙のグラスに揺れ動くワインのようにゆったりと燃え拡がるはずだ
世界は初めて美しいよこがおを虹色に染めるだろう
詩は千年をかけて夜の鳥たちのように
はるかな空無へ他者へ燃えわたされていく
(私たちがいなくなったならば誰かがまた歓喜と苦悩の油を絞る)
よりよく燃えるために私たちは生きる・書く 
風は葉を揺らし花は香りを放ちながら・書く
ふいに敗北したように空気はかたわらでくぼみ句点が打たれ
いつしかけもののように他者のために祈りつづけ世界は輝く白紙となり 
ただ証すための一篇にいとおしく焼き尽くされるため
この今を抱くように生きている