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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

平和をうたう訴求力(5月28日付「しんぶん赤旗」)

   平和をテーマとする詩は今決して少なくない。平和が脅かされる時代に平和を描こうとするのは、自然であるし望ましい。だが詩の世界を越え、市井の人々の琴線に触れる言葉はまだ生まれていない気がする。足りないのは何か。自戒も込め最近ではこう思う。足りないのは訴求力だ。平和な生活を描写したり、戦争を説明したりする力は十分だが、訴求の鋭さはむしろ削がれている―。 

  ではこの現在、どうすれば訴求力を獲得できるのか。失われて初めて気づく平和の絶対的な尊さを人々の心に喚起する言葉は。表面的な平和にともすれば眠り込みそうな自分を目覚めさせる言葉は。

  詩誌「午前」(発行人布川鴇)で神品芳夫氏による連載「詩人木島始の軌跡」が始まった。三年前に出た『木島始詩集 復刻版』(コールサック社)は私に深い感銘を与えたが、氏の連載に触発され久しぶり読み返してみた。すると感銘のゆえんが、この詩人の訴求力にあったことに気づいた。

   木島は一九二八年生まれ。学徒動員先の広島の工場で被爆者の救助に当たった体験を、詩作の起点とする。〝黒人詩〟の翻訳や絵本の作者としても有名だ。その独特の訴求力は「彫塑的」であり、「闘う姿勢とエロスを含んだイメージ」から生まれている(神品氏)。平和の下での歓喜や愛から、死者の代弁者として平和を訴え、戦争犯罪を鋭く糾弾する。今最も学ぶべき詩人ではないか。

「鳩 …………いまや、空を馳せるぼくらの純白の軌跡。/誓って、方位まごうまいぼくらの鳩。」「鳩」(一九五〇年)末尾部分。

   この鳩は平和の象徴を超え、平和への希求そのものとして、私の胸に飛び込んでくる。