為平澪さんが主宰する詩誌『ファントム 』3号が届きました。
とても美しい装丁で、手に取った落ち感も良く、1号ずつ、まさに職人技で一つの詩の「空間」を創造しようとする為平さんの意志が、すみずみに感じられます。
執筆者は浦世羊島、麻生有里、奥主榮、岡田ユアン、金井裕美子、酒見直子、為平澪、一色真理、フォトポエムに尾崎まこと、エッセイに墨岡孝、私は詩のゲストに呼んで頂きました。総勢11名、60頁です。それぞれの詩の現在をしっかり見せる作品群を、主宰の為平さんの詩的磁力が魅力的に繋いでいるという印象を持ちました。
私もかつては何誌もの同人誌に、主宰も含めて関わったものですが、 ここ十年は所属誌はありません。しかしこうして力ある同人誌を手にしてみると、懐かしさと同時に、ひととき他者と詩の空間で隣り合う安らぎや、もう一つの現実としての詩の共同体への憧れが思い出されてきました。
墨岡孝さんのエッセイ「現代詩についての雑感」は、一般にこの国の戦後詩の出発とされる1951年の『荒地詩集』巻頭の「Xへの献辞」とどこか連なるものを感じさせました。
「私達は、まず自己の内的な経験のなかに深くかかわることから詩をはじめなければならない。それが今日的意味で、最も状況的な人間の姿であるような気がしてならない。詩人は、個々の内なる沈黙の規範のなかにその豊かな感受性の根をおろさなければならない。」
ちなみに私が寄せた作品「髑髏」は、このところ密かに書き継いでいる伊藤若冲をめぐる連作の一つ。若冲の絵は若冲が残した美であり、沈黙そのものだと思っています。その「詩」が三百年後の今、私のあてどないの「感受性の根」を惹きつけてやまないのだ、と。