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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

「抗いの意志を刻む」(6月25日付「しんぶん赤旗」文化面・「詩壇」)

  金時鐘(キム・シジョン)氏の詩集の刊行が相次いでいる。今年2月に『金時鐘レクション』(藤原書店)が発刊され、『祈り 金時鐘詩選集』(丁海玉(チョン・ヘオク)編、港の人)、新詩集『背中の地図』(河出書房新社)が続く。これで一九五〇年代に始まる氏の、六十年以上の詩的営為の全貌を見ることが可能となった。この「出版ラッシュ」はひとえに出版者たちの、金氏の詩が広く読まれてほしいという願いにもとづく。
 金氏の詩は決して読みやすくない。日本的抒情と対峙する硬質な言葉で、自らに巣くうかつての日本、そして不都合な歴史を消し去ろうとする今の日本を打ち続けるからだ。「打ってやる。/打ってやる。/日本というくにを/打ってやる。/おいてけぼりの/朝鮮もだ。/とどいてゆけと/打ってやる!」(「うた またひとつ」)
 『祈り』を編んだ丁海玉氏は一九六〇年生まれ。詩人であり韓国語の法廷通訳者でもある。「ふたつの言葉にどう向き合えばよいのか考えの乱れる日々」の中で金氏の詩と出会った。丁氏は、朝鮮語母語としつつ植民地教育で日本語を学び、解放後「壁に爪を立てる思いで」朝鮮語を習い覚えた金氏の詩を、「絡み合ったふたつの言葉で紡いだ詩」と見る。歴史や社会状況にも照らして、自らが感銘を受けた作品をまとめた。
 『祈り』は、世代を超え二つの国と言葉を生きる二人の詩人の、まさに共鳴から生まれた珠玉の一集だ。『コレクション』『背中の地図』も合わせ、詩とは歴史の証人であることに気づかされた。歴史がどう変えられようと詩の中に真実は残る。植民地支配の歴史を証し、抗いの意志を刻み込む金時鐘の詩を、未来に伝えようと出版に踏みきった人々に心から敬意を表したい。