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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

2019年3月26日付しんぶん赤旗文化面「詩壇」

   一九九八年一月に享年四十九歳で亡くなった詩人・小説家川上亜紀氏の新刊小説・カシミア』(七月堂)が出た。川上氏が所属した詩誌『モーアシビ』(編集発行人白鳥信也)も、別冊で追悼特集を組む。

  学生時代から難病と闘いながら書き続けた。上記の他に詩集は四冊、小説集は治療体験を描く作品を収めた『グリーン・カルテ』(作品社)がある。『チャイナ』の解説で笙野頼子氏は言う。「その編み目に狂いはなく欺瞞はなく、そこにいきなり生の、真実の「小さい」感触が入ってくる」。「真実の感触」とは詩的な物質感のことだろうか。あるいは鋭敏な自己意識、幻視、ユーモア、何より病苦を、今を生きる幸福へ解き放とうとし続けた意志か。

「彼方の砂漠の国では戦争があり/あなたはそのニュースを聴きながら/来たるべき瞬間のために爪を研いでいた/雨の匂いは重くたちこめて/湿度の高いこの国の上空には/いくつかの花火が上がっていた」(「夏 1」)

 若い頃の作だが、心に秘めたつよい反戦の思いを感じる。氏のツイッターから、戦争法案が強行採決された二〇一五年夏、病身を押して国会前に行っていたと知る。中でも次の言葉に深い感銘を覚えた。「強行採決は予測されたことではあったと言ったけど、それはなにをしても無駄だという意味ではなくて、ただ長い道のりなんだということ。デモも署名も意見の表明も、それからただ考え続けることもなるべくいやな気持にならないでその日その日を過ごすことも。」

  人間の苦難にどこまでも寄り添い励ましてくれるものが、詩なのだ―。川上氏の珠玉の言葉は今も詩の光を放ち、時代の闇に抗している。