与那覇恵子詩集『沖縄から見えるもの』(コールサック社)は第1詩集。作者は沖縄の大学で長年英語教育に携わりながら、詩作を続けてきた。またほぼ同時に論集『沖縄の怒り―政治的リテラシーを問う』(同)も上梓した。後者は琉球新報と沖縄タイムスの論壇へ投稿を続けたおよそ十年間の結実。両書は退職という区切りにまとめられた。
「人が人間社会に生きる限り、書くことはメッセージを伝えるがためであると考える」と詩集のあとがきに書く与那覇氏の詩は、基地を背負わされた沖縄に今生きる者だけが感受しうる(あるいは感受せざるをえない)痛みを、空や海の美しさと共に切実に伝える。どの詩も「弱々しく口ごもる真実を/黙って耐える真実を/言の葉の枯れ葉の下から/拾いあげるために」書かれた。日常が次第に非日常となっていく不気味さ、変わらぬ本土の差別意識への怒りとその戦前回帰の不安、沖縄の弱者にしわ寄せされる貧困。その中で作者にとって詩とは、安倍政権の語る「アベノミクス」や「平和」の空々しさを切り裂く、言の葉の命の輝きだ。
詩集にあふれる詩への思いと、論集に満ちる安倍政権への怒りは深く繋がる。その底から聞こえる声―。「今日も きりきりと 爪を立て/沖縄の空を アメリカの轟音が切り裂いていく//切り裂かれた空から/したたり落ちる/血//傷だらけの空を抱えて/立ちすくむ/わたしたち」「沖縄からは日本がよく見える/と 人は言う//水平線のかなた/あなたのいるそこから/今/どんな日本が 見えているのだろう?」(表題作)「日本」を照らし出す沖縄の詩性の真率な輝きに、注目したい。