いい詩に出会いました。
嵯峨 信之さん(1902年 - 1997年)の「歴史」。
嵯峨さんは、「詩学」の編集長だったことでも有名です。
たまたま出会った詩です。
1977年に発表された、18〜19歳の頃の作品。
第一次大戦の際の青島出兵や、その後の山東出兵が背景にあるそうです。
五行目の転調が鮮烈だと思う。
菖蒲の花が耐える「重い時間」とは何か。
「あなた」とは「彼」とは誰か。
二重露出されている、記憶の中にある別離の時間と、生々しい戦場の現在。
短いけれど、反芻すればするほど
生の、そして死の「時間の重さ」が伝わってきます。
歴史
嵯峨信之
菖蒲の花が咲いていた
重い時間を支えながら
テープのような虹が崩れる前に
あなたは彼の前から去っていった
いま敵に向って
一つの重機がはげしく火を噴いている
硝煙のなかで
菖蒲の花が揺れている
重機が急に沈黙した
立ちあがった兵の姿が前のめりに消えていった
いっさいの上に過去がしずかにながれている
菖蒲の花がゆれていた
重い時間の中に