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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

「しかしそれだけではない 加藤周一 幽霊と語る」

京都シネマで昨日から公開された                                           Image512
「しかしそれだけではない 加藤周一 幽霊と語る」
をみてきました。

2008年12月に世を去った、日本を代表する知識人であり文芸評論家である加藤周一の、最後の日々を追ったドキュメンタリー。その生涯全体を追うと共に、若い世代へのメッセージとしての講演と生前最後のインタビュー(2008年8月)も収録しています。

大変貴重なドキュメンタリーだと思いました。
すみからすみまで、肉体が衰えつつあるからこそ
加藤さんの存在と言葉の意志がみちていると感じました。
あるいは画面を特別なものにしていたのは
加藤さんのことが好きでみなボランティアで参加した
スタッフの愛と悲しみでしょうか。

昨年4月、私が京都で開いた詩の勉強会「詩ノ窟」の第二回目で
若い人の提案で加藤さんの『日本文化の時間と空間』を取り上げました。
亡くなった直後で追悼の意味もありましたが
しかし私などは京都に長年いながらも
この時に初めて加藤さんの思想の一端を知ったのでした。
それからNHKで追悼特集番組も放映されたのだと思います。
よく行かれた京都の居酒屋に私も行ったことがあり
また幻の詩集『薔薇譜』も(人から借りてそのまま!)持っています。

一度もお会いしたことがなかったというのは
寂しいかぎりです。
しかしこの映画は「幽霊」としての加藤さんに
深いところで出会える素晴らしい映画です。

「幽霊」といっても怖くないですよ。
加藤さんのいう「幽霊」とは「エスプリ(精神)」ですから。

「あの、幽霊はね、私はまあ大体幽霊が好きなんですがね、我々と幽霊が違う一番大きな点は、幽霊は歳をとらないということですよね。
 ということは、別の言葉で言えば、戦前、戦争中とですね、戦争直後と、それからまた最近の日本というふうに、生きている人は歳をとると同時に意見が変わるわけ。ところがその、すべての幽霊は歳をとらないわけですから、だから意見も変わらないわけ。
 それで、意見の変わらない立場からね、やたらに変わらない立場から、変わっていく世界、世情を、その世の中の有様を眺めて、分析して、理解するということが重要だと思う。そうでないと本当の批判にならないわけ。」

戦死した友人たちの幽霊
あるいは無数の死者たちの幽霊を
再び殺すな、と加藤氏はつよく遺言します。
その人たちを望まない死に追いやった何かが今ふたたびうごめいているから。
幽霊たちが願ったのはもっと生きたいという願い。
つまりはそれは平和のことで
だから戦争とは幽霊を再び殺すことになる。
「戦争して何するんですか。なんのために」
「(物質的に)豊かになったら何をするわけ、その金で。何もないでしょう」

こういう決然とした誇り高い声、口調、まなざし、表情を持った人をこそ
知識人というのでしょう。
この頼もしい「幽霊」が私の中にも棲みついてくれるように。