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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

片岡幸彦「中東の詩人・アドニスの世界」

今年のノーベル文学賞は、ペルーのバルガス・リョサ氏でした。Image984
『世界終末戦争』というペルーの新興宗教団の悲劇を描いた大作を
かなり昔読んだのですが、凄く面白かった覚えがあります。
たしか1990年頃だったかな。
あの頃は日本の文学界も世界文学への憧れがつよくて
文学にも越境という言葉がはやっていました。
なつかしいというか、どうして熱が冷めてしまっちゃったんでしょうね。

今朝の京都新聞に、
学際NPO「GN21」代表の片岡幸彦氏による
中東の詩人アドニスについての紹介記事がありました。
ここ数年ノーベル賞候補村上春樹にとともに
名前が挙がっている詩人だそうです。
この記事によれば
先日このブログでご紹介した
来る28日に京都大学で上映会のある『太陽の男たち』の作者
ガッサン・カナファーニー
1988年アラブ圏初のノーベル文学賞に輝いた
ナジーフ・マフフーズなど
「1960年代以降、アラブでは故郷と自由の追求の中でさまざまな文学が生まれた」
のだそうです。

アドニス氏もその潮流を担う詩人。
1930年シリア北部のへき地ともいえる農家に生まれる。
12歳で王の前で「詩のプレゼンテーション」を試み
才能を認められた、というからすごい。
「王」という存在が詩人の出発に関わるとは
なんだかアラビアンナイトの世界みたいですね・・。
その後政治改革運動にもかかわって投獄されますが
解放後は詩作に傾注。
今はフランスに住んでいて、彼地での評価が高いとのこと。

私が記事の中で目をひかれたのは
「フランス近代詩の中でも反逆児ランボーに傾注、
イスラム時代の盲目詩人マアーリに心酔」というところ。
ランボーのパリコミューンや砂漠といった白熱する彼方を
この詩人も志向しているのでしょうか。

とまあ、色々想像を馳せますが
百聞は一見にしかず、
記事の中で引用されていた片岡氏訳の「石たちの叫び」冒頭部分です。

ひとかけらの石落ちて
壁崩れ 視界ひらけ
遥かに現れしや
ああ 思うて久しや 石を
われら 巡り会い
ともに傷つき 眠り
目覚め 別れ
また戻れり
かくて 遠く離れ来て
われ初めに砕け落ち
最後のかけらとなりて
鏡語りし世界の彼方 今遙かに見透かさん