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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

詩「友だち」

*許玉汝さんの詩への返歌として

友だち
            ぐ近くまで
            虻の姿をした他者が
            光をまとって飛んできている(吉野弘「生命は」)

                                  河津聖恵

あなたはいつから
私を呼んでいたのだろう

風は花粉の匂いをたしかに運んでいた
海は遠くで輝きをましつづけていた
私は呼ばれていたのか
それとも 私が呼んでいたのか 
蕾のように長い時をかけ
お互いにむかってうごきつづけていた
「欠如」がたしかにあったのだ 

あの日 ためらいをすて
ハッキョへの坂をのぼろうと決めたとき
雪解け水のような春の光が
きらきら鳥のさえずりを映し
坂をのぼる私にふりそそいだ とき
過去からおりてくるオンニたちや
未来へとのぼるヨドンセンたち
の息づかいと心の高なりが
ゆっくり胸にかさなってきた  とき

透明な空気のふくらみのように もう
あなたは共にいてくれたのだ 

それとも もっと、もっとはるかな時に?

三月のいつだったか
当面の除外が決定されて間もない 
眩暈のような永遠の日
私は一人だったのに
もうひとりではなかった
右手には
遠い南のくにの「思いやりの学校」の
クリアファイル百枚がずしりと重く
(その日 この国の品はどれも
 生徒たちへの贈り物にはふさわしくないニセモノだった)
かざした左手にも 光はけっして軽くなかったけれど
つらいまぶしさは 
もう ひとりではない 不思議な予感だった
クリアファイルに描かれた
ゴミ山で生きる子どもたちのクレヨン画
花や虫や果実やひとの笑顔
その未来の重みが掌を明るませ
子どものような勇気が
身の内にしずかに湧いた
風のような何かに 背中を押された
やがて誰もいない校庭の方から
頬はかすかなざわめきにくすぐられて

朝鮮学校無償化除外反対!」
この国でそう声にすることは 
かぎりない孤独と不信と
熱い連帯のはざまで引き裂かれることを意味すると
初めて知ったのだけれど

真実の痛みが降りてきたからこそ
ほんものの出会いが熱くたちのぼってきた

あらたな透明な時が とくとく空へ飽和して 

初めて会う約束の刻 鶴橋駅
まっすぐ前へはりつめていたまなざしを忘れない
遥かな時の中から
あなたは私を見つけてくれた
遥かな時を経て
私はあなたを見つめはじめた
花と虻のように 虻と花のように 
かつてはぐれたほんとうの友だちとして