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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

赤インクと青インク

ウォール街を占拠せよ」での
スラヴォイ・ジジェク - 民主主義と資本主義の結婚は終わった] http://beneverba.exblog.jp/15980772/に触発されました。
(なお動画はこちら→ http://youtu.be/zFk0ZXGO3aYです)

「私たちには、私たちが望むあらゆる自由があります。私たちには、ただ赤いインクがないだけなのです。私たちの不自由を明確に表すための言語が。」
ここで「赤インク」とは、書かれていることが嘘であるということを示す色、
反対に「青インク」は、書かれていることが真実であることを示す色です。

私たちは、今、間断なく資本主義の欲望に追われるマスメディアによって、
実体のない夢やイメージを間断なく強いられています。
それらが嘘であることは自覚しているのに、
その自覚を伝えうる話法を獲得していない、とジジェクは言うのです。
つまりそれほど資本主義の欲望の虚無とは根の深いものだということです。

そう、もはや資本主義と民主主義は相反するものになっています。
資本主義は夢や幸福のイメージだけはくれる。
しかし人々から夢や幸福を実現する手段を奪ってばかりいる。
マスメディアは人間の切なる欲望をたえず社会全般に触発するのに、
現実的な一人一人の個人の内面においては
そのような欲望の不可能性を深淵をひらくように暗く苦く自覚させられるだけです。

日々、私たちの足下には底しれない深い虚無がひろがっていく。
その不安に、ともすれば次々与えられる夢や幸福のうつろなイメージに
うつろな感情のまますがりつくことにもなってしまいかねない。
今、日本に独裁者を待望する気分が広がっているとすれば
その原因はまさにそうした精神的なメカニズムにあるでしょう。

人が今
与えられる一方の夢や幸福のイメージを嘘であるというためには
一人一人が自分の中から見出す鮮やかな赤インクが必要です。
ジジェクが言うように、
私たちは「より高い生活」ではなく「より良い生活」を望んでいます。
「より良い」は「より高い」よりも言葉にするのが難しい。「より良い」を語る文法は、一人一人が生きる中でつかみ取らなくてはならないから。
それをつかみとるためには、
誰しもが今自分が抱える「この世界にはうんざりしている」という感情の
リアリティを感じつくすことと、
一人一人がどんなオルタナィヴを望んでいるのかを考えつくすことが必要でしょう。
それら双方を往還し模索することからこそ、インクの赤の鮮やかさはつかみだすことができるのです。

青と赤は補色関係。
鮮やかな赤インクは、
青インクに遙かに、しかし確かに呼応する。
詩人には
生命の根源の二色が呼び合うような
資本主義の中から屹立する新たな文法と言葉を獲得する直覚の力があるはず。
詩は今
「どうか、あなたが欲するものを望むことを恐れないでください。」
と言葉の中から人を励ます言葉でなくてはならない。