#title a:before { content: url("http://www.hatena.ne.jp/users/{shikukan}/profile.gif"); }

河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

『有馬敲全詩集』(上下巻、沖積舎)

『有馬敲全詩集』(上下巻、沖積舎)が出ました。Image1202

1963年の第四詩集『贋金つくり’63』から未刊作『異界紀行』までの詩が並びます。
総頁2180頁を追っていくと
詩への考えや表現方法だけでなく
世相と作者の生活や人生の変化をも
詩が如実に映し出しているのが分かります。

有馬さんは京都で長く活躍する詩人です。
「関西フォーク」との関わりを思い出す人が多いのではないでしょうか。
関西フォークとは
1960年代、いつまでもスタイルにこだわり
英語で歌い続ける東京のフォークに対し
関西で日本語で自分のフォークソングをうたおうとした
シンガーたちのこと。
関西の反骨精神のあらわれですね。

その代表格の高田渡さんとも有馬さんは交流が深く
「値上げはぜんぜんかんがえぬ」で始まる
有名な「変化」の歌詞も有馬さんの詩です。

この『全詩集』で今私がとりわけ面白いと思っているのは
『新釈近代詩歌抄』。
様々な近代詩人の名詩に、音韻を合わせ意味をずらした
見事なパロディ詩がいくつも並びます。

そのひとつ宮沢賢治雨ニモマケズ」のもじり
「値上げニモマケテ」から。

値上ゲニモマケテ
課税ニモマケテ
公害ニモ核ノ持チコミニモマケル
ヒヨワナココロヲモチ
金ハナク
決シテ笑ワズ
イツモイライラセカセカシテイル
一日ニ即席ラーメン四杯ト
ミルクト少シノパンヲタベ
アラユルコトヲ
ジブンヲカンジョウニ入レテ
テレビ週刊誌ヲヨクミキキシワカリ
ソシテワスレ

というように当時の日本人の反賢治的状況への批判が続きます。
そして

北ニケンカヲヤメテ仲ヨクシヨウトイウ国アレバ
ワカッタカラ早ク領土ヲ返セトイイ
ヒステリート交通事故ノトキハ涙ヲナガシ
不況ノアキハオロオロ歩キ
ミンナニエコノミックアニマルト呼バレ
ホメラレモセズ
愛サレモセズ
ソウイウモノニ
ワタシハナリタクナイ

このカタカナたちは今もこの日本に突き刺さると思いませんか。