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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

吉野弘『現代詩入門』(一)

いま、どのように詩を書くべきか──。Yoshino

震災後、「もう詩を書くことなんか不可能だ、無力だ、あんな風景を前にして」
という声をよく聞きます。

しかし詩は今もやむことはありません。
私の元にもほぼ毎日、同人誌や詩集が、時には何冊も送られてきます。
むしろ震災前よりも頻度が高くなった気がします。

もし今、むしろ詩への言い難い衝動が
靜かな燎原の火のように拡がりだしているとしたら?
多くの人がただ生きるのみの生存を孤独に抱えるからこそ
生存を越えてあふれでようとする言葉への欲望や
人間への希望や他者への祈りがつよまっているとしたら?

もちろん生存のコップの中に世界は収まってしまって
そこからこぼれていく詩は
ただ干上がって、消えるだけかもしれない。

しかしいずれにしても、詩人が詩を諦めないならば
詩を書き始めた頃の自分に立ち戻り
初めて世界に「詩」というものを感じた時の光や影や静寂や孤独を
今初めてのように感じ直して、赤子のようにことばと世界に触れていく──
そのような原点への立ち返りが必要な時であるのはたしかです。

吉野弘『現代詩入門』(青土社)。
私も詩の原点の風に久しぶり吹かれることができました。
高校生の頃読んだ、「夕焼け」や「I was born」は強い印象を与えられた詩人。
当時も吉野氏の詩は
いい詩であるというより、何か強い焦点によってひきしぼられている詩だと感じました。
理由は分からないけれど、
また自分もこういう詩が書けるとは思わなかったけれど、
すごく巧い、ほんものの詩だなと一瞬で感じました。

当時その理由が分からなかった氏の巧さがどこから来ていたのか、
この『入門』を読んでよく分かりました。

吉野氏は本の終わりでこう述べています。

「詩の技法について私はほとんど述べませんでしたが、これは、詩をひとつの手応えとして感じることのほうが、重要さという点では技法に先立つと考えられるからです。手応えさえ確かなら、方法は見出せるというのが、私の考えです。」

この「手応え」は詩の中の「矛盾」によって生まれるものなのですが、
明日また書いてみたいと思います。