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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

詩とは美しすぎる復讐かもしれない

今、よんでいるのは
アンドレ・ブルトンをして「生まれ出ずる酸素のように美しい」と感嘆せしめた
仏領マルティニックの黒人詩人エメ・セゼール(1913−2008)。
自らが二グロであることから
白い普遍に抗する詩の力を汲み上げた詩人です。
その詩はまさに
植民地としてのマルティニック島の悲劇と闇から身を起こす
黒い光に輝く言葉の氾濫、蜂起、進軍です。

 そして私は自分に言う、ボルドーそしてナントそしてリヴァプールそしてニューヨークそしてサンフランシスコと
私の指紋のついていないところなどこの世界にひとかけらもありはしない
そして摩天楼の背には私の踵骨が
そして宝石のきらめきの中には
私の垢が!
私以上にもっていると誰に自慢できようか?
ヴァージニア、テネシージョージア、アラバマ
無効に終わった
反抗の化け物じみた腐乱
腐った血の沼
不条理にも口をふさがれたトランペット
赤い大地、血の大地、同じ血が流れる大地。(『帰郷ノート』砂野幸稔訳から)

「私の指紋のついていないところなどこの世界にひとかけらもありはしない」
この一行は私の詩的身体を垂直につらぬいていきます。
まったき非所有という、世界のまったき所有!
そうそう、このブログの副題のブランショの言葉である
「それを通してすべてが消え去るかがやき」
と同じ解放感です。
「そして宝石のきらめきの中には/私の垢が!」
えっ?!と
私はただうろたえました。

セゼールの言葉は
流れ出た血という究極のすがたとしての自由がある。
流れ出た血という形でしか自由を与えられなかった奴隷たちの
黒い宿命を、大地の重力をねじまげるようにして
太陽の方へぎらぎらと射返していくのです。
「わが赤貧のいきいきとしたゼロ」というところから
発せられる言葉は本当に今生まれた酸素のよう。

うーん、詩って美しすぎる復讐なのかもしれないと
新たな定義を与えられています。