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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

翼をください

ランボーの「ジャンヌ・マリーの手」は
労働者の一女性の手を
パリの石畳の固さと同じ次元で
しかしそれを宝石のような煌めきにして、
熱き未来の扉を果敢に叩くものとして
うたいあげます。

私の「シモーヌの手」のほうは
今読むと
手というよりは
つばさのイメージに思えます。
ふと
百年前に生まれ
東柱と同じくあらぬ嫌疑をかけられ
西神田警察署に拘禁されたことがもとで
持病の結核を患わせて
東柱と同じ27歳で東京で亡くなった
李箱(イ・サン)の小説「翼」の印象的なラストを
書き写したくなりました。

養われている妻に
睡眠薬アスピリンと偽って飲ませられ
ミツコシの屋上から降りて日本人街をふらつきながら
「僕」は悲しみの中で思います。

「僕は急に脇の下がむず痒くなった。ああ、それは僕の人工の翼が生えていた跡だ。今ではなくなったこの翼、頭の中では希望と野心の抹消されたページが、ディクショナリーが捲られるようにちらついた。
僕は歩みを止め、そして、よし一度、こんなふうに叫んでみたかった。
翼よ、今一度生えよ。
飛ぼう。飛ぼう。飛ぼう。もう一度だけ飛ぼうよ。
もう一度だけ飛んでみようよ。」(崔真碩訳)

先日久しぶりカラオケで友人と熱唱した
翼をください」を思い出します。
悲しみの無い自由な空へ飛び立つ翼が欲しい
という曲を。