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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

丁 海玉『こくごのきまり』

丁 海玉(チヨン・ヘオク)『こくごのきまり』(土曜美術社出版販売)が面白いです。Image892
ひらがなの多用がこちらの胸に響かせる
淋しさといとおしさ。
これはなんだろう、とおもって読みすすめました。

この詩集で多用されるひらがなは
単に柔らかな感じや口語的な印象を狙うためではありません。
恐らく作者が携わる法廷通訳人という仕事と深い関係があります。
法廷通訳人とは、
日本語が通じない被告の法廷で通訳を担います(丁さんは韓国語の通訳らしい)。

例えばテレビなどで同時通訳を聞くと、
通訳の日本語はどこか通常の日本語とは違いますね。
相手の言葉の影響を受けて、
音が変えられている。

この詩集のひらがなも、
他者の外国語に寄り添おうと
日本語から少しはぐれてしまった日本語の姿だと思います。
淋しさといとおしさをしんと響かせて
ひらがなが心に沁みるのです。
自分と他者とのあいだを
はぐれてながらゆきつもどりつする
言葉というものの不思議ないのちを実感させてくれる詩集です。

接見室を区切るアクリル板の向こう
ハングッサラミエヨ? と
Yさんがわたしに聞いた
そうです、とか、いいえ、とか、答えられない
私語も無視もできない
かんこくじんですか?
訳したにほんごだけ切りとって押しかえすと
宙に浮いたYさんの声が向こう側で
ぼんやり曇った
自転車を押しながらT先生が世間話をはじめる
アスファルトの上をタイヤがころがる
                   
(「法廷通訳人と呼ばれたときは」より)