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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

氷の下でふたたび一匹の鯉が

冬 師走の花、200pxtakanogawa_28kyoto2ckyoto292
氷の下でふたたび一匹の鯉が──

鄭芝溶(チョン・ジヨン)という詩人が
尹東柱を指して言った言葉だそうです。
鄭芝溶は感覚派の詩人で、
同志社大学にある「鴨川」という詩を刻んだ彼の詩碑は
「序詩」を刻んだ東柱の詩碑と並んでいます。
先日「東柱を生きる会」のメンバーで訪れた時、
誰かが備えた煙草が
二人の詩碑のそれぞれに
丁寧に揃えて置いてあるのが印象的でした。
詩作品から二人とも煙草を好んでいたと想像した
ファンの気の利いたプレゼントでしょう。
それを見た時、
私は想像しました。
うららかな朝などに
東柱はちょっと小粋に学生服を着て
(東柱は手が器用でおしゃれだったので、自分で手直ししたそうです)
英語の歌などを楽しそうに歌いながら
鴨川を歩いていたのではないかしら、と。

「冬、師走の酷寒の中の花となれば、その存在自体すでに恩寵であり奇跡である。あの厚い氷の下の冷え切った水の中を泳いでいる一匹の鯉は、真実、畏敬すべき存在だった。」
               (宋友恵著・愛沢革訳『尹東柱評伝』)

東柱の遺志を継ぐように、
この社会の今を果敢に生き抜こうとしている多くの東柱たちがいます。
かれらが
氷の下のようなこの国の今をさえ
愛してくれる恩寵と奇跡に私は感銘を覚えます。

私たちはどれだけ東柱を知っているといえるでしょうか。
彼は遙か高みのどこかにたしかにいて
(彼の叫びが消えないかぎり)
私たちをじっとまなざしつづけていると思うのです。
どうか自分の詩を裏切らないでほしい、と。