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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

金環日食

金環日食を見ることが出来ました。Dscf0766
朝、たまたま外に出たら、近所の人が何人か集まって
黒いグラスを掲げて東の空を見上げていました。
そうか日食の日だったんだ、と気づきました。
昨日まで全く興味がなかったのですが、
「みえるみえる」と他人が楽しそうに眺めていると、
ふいに心が騒ぎ駆け寄りました。
そばに寄るとみな快くグラスを貸してくれました。

不思議な現象でした。
グラスの闇の中にオレンジ色の輪が出来かけている。
心の底をまさぐるような何とも言えないじんわりとした光です。
見ている間、私とこの光の輪との出会いは
いつから準備されていたのだろうか、と感慨深く思っていました。Dscf0765
何百年もの深い闇の中から立ち現れた輪が
今このときの私の網膜にふいに焼き付けられたのです(グラス越しの写真は失敗しましたが、裸眼での写真は上のようです。一瞬だけ目が焦げたかも(笑))

グラスを外すと辺りが少し変です。
光は力を緩め鳥は静まり
アスファルトの上には木漏れ日が一斉に丸く研がれています。
世界は仮面を外したように不穏な沈黙をあらわにしていました。
木々も家も壁も夢で見たような光度と質感です。
黒いグラスを掲げて太陽を見つめる人々の無心さも
なぜかとても懐かしい。

あっという間の天体ショーでした。
すぐに世界は何事もなかったように日常の明るさとざわめきを取り戻しました。
しかしこの金環日食の時間は
私の中に不思議な残像を残したようです。
自然存在としての自分の奥底が思いがけず賦活させられたのを感じています。
光ならぬ光に、記憶の古い層から何かを引き出されたのでしょうか。
月の光にもどこかつうじる、光の生々しさ、生命力に
けものの甘美な戦慄を思い出したのでしょうか。

今人の魂は、金環日食的な光こそを欲しているのかもしれません。
しらじらしく均質な蛍光灯のような光に代わって。