このたび、
『奪われた野にも春は来るか 鄭周河写真展の記録』(高文研)
が刊行されました。
本書は3.11直後から福島の原発被災地で風景写真を撮り続けた韓国の写真家・鄭周河さんの、
日本各地で開催された写真展でのトークセッションの全記録を収録したものです。
タイトルの「奪われた野にも春は来るか」は、植民地下朝鮮の詩人、李相和の詩から取られました。
鄭さんの写真(口絵に一部掲載)は、植民地となった朝鮮と放射能によって無人になった福島の土地が、オーバーラップする思いで写されています。
それらの写真から触発されて各地で生まれた言葉は、それぞれの固有の時空と五感から語られ、また他者からの問いかけに応答するという姿勢のもとに語られています。この本には従来の議論にはないリアリティと新鮮さがあり、多くの共感の輪を拡げていく可能性があると信じます。
今も進行中の原発事故を、多くの人がみずから忘却しようとしているように思えます。
しかし私たちは今も確実に奪われ続けている。
そのことを否認し続けることによって、さらに奪われていくことになるでしょう。
私たちがしなくてはならないのは、
奪われた他者たちの痛みに想いを馳せることによって、
奪われていく自分の足下の痛みを自覚してそこに向き合い、
その痛みの中から他者へ繋がっていく方途を見出すことではないでしょうか。
この一書は、「苦痛の連帯」は可能か、という問いかけを総がかりで訴えています。
どうか今苦しむ多くのたましいに届きますように。
なお私も京都でのトークに参加しています。
その時の発言とこの展覧会に寄せた詩「夏の花」が第6章に収録されています。