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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

『環』(藤原書店)46号に「詩獣たち(三)・幼獣──中原中也」を書いています

『環』(藤原書店)46号に「詩獣たち(三)・幼獣──中原中也」を書いています。Image1462

この連載の趣旨は
「詩獣たち」というタイトルが表しているように
詩人を現実や世俗や時代によって負わせられた傷の中から
うったえ、うたう「手負いの獣」として「捕らえる」ことです。
そして詩を、そのような獣たちの「うた」として聴き取ることです。

毎回、かなり場当たり的に書いていますが
不思議なことに私が愛する「獣たち」はすべて
詩作品に「獣」というセルフイメージを残してくれているのです。

第一回で導入的に触れた尹東柱も、パウル・ツェランも。
第二回のアルチュール・ランボーも。
そして今回の中原中也もこんな詩を残しています。

黒い夜草深い野にあつて/一匹の獣(けもの)が火消壺の中で/燧石を打つて 星を作つた。/冬を混ぜる 風が鳴つて。//獣はもはや、なんにも見なかった。/カスタニェットと月光のほか/目覚ますことなき星を抱いて、/壺の中には冒?を迎へて。/(二連略)/黒い夜草深い野の中で、/一匹の獣の心は燻る。/黒い夜草深い野の中で──/太古は、独語も美しかった!……(「幼獣の歌」『在りし日の歌』)

「幼獣」は、詩人自身です。
太古の黒い夜の草はらの火消壺の中で
小さな星の火花を散らす詩獣は、孤独な魂の燧石を打ち
うたをけなげに蘇らせようとするけもののこども。
そして蘇るうたは、太古の闇におびえるようなきれぎれの火花です。

そのような聞き届けられないうたの火花こそが
幼獣中也の詩なのでした。
明治期からの詩の変遷との関わりの中で
中也が選んだうたのけもの道を
私なりに共鳴しながら描き出しました。

多くの方に本を手に取っていただければ、大変嬉しいです。

なお今号の特集は「東日本大震災」。
後藤新平の会を主宰し、沖縄の自治などを提唱してきた『環』のスタンスでの震災特集は必見です。
被災地の短期連載として今回は石巻の人々の声も聴くことができます。
この震災を問うことは私たち自身を問うこと、という主張がこの一冊にはみちています。
各所に挟み込まれた市毛実さんの、とりわけ被災地のモノクロ写真は、つよい霊性さえ感じさせて素晴らしいです。