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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

「葛飾北斎展」(京都文化博物館)をみました。

先週の日曜日に、京都文化博物館に「葛飾北斎展」をみに行ってきました。Fuji
北斎は現物をこれまでみたことがなかったので、楽しみにしていました。

日曜ということもあって、会場は大変な混雑ぶりでした。
マイペースではなかなかみられず、人の流れのままに
ゆっくりゆっくり、蝸牛が這うように見ていきました。
おかげさまで、じっくりみることができました。
ただあまりの人いきれで、ちょっと酸素不足になったせいか
ふと半睡状態に陥り、
眺めている北斎の世界にそのまま入り込んでしまいそうな一瞬もありました。
(頭が傾くのに寸前でハッと気づき、覆いのガラスに頭を打ちつけず、さいわいでした・・)

江戸後期に製作された北斎の版画はモダンな美しさがあるようにもみえます。
一方でプリミティヴな謎、不思議さが多分にあって
本当に魅惑的でした。
海や空の深い紺、あるいは夕空や樹皮の赤、デフォルメされた岩や波、ありえない位置を横切る魔物のような雲などが
おのずとまなざしを吸いこんでいくのです。
自分のものではない、江戸時代に生きた誰かの不思議な夢に入り込んでいくように。

図上の「山下白雨」は有名すぎる画です。
上の方では晴天なのに、下の方では稲妻が走っているという、神の山の幻想的な一瞬をとらえています。
この富士の雪の筋の部分もややそうですが、
他の富士画でも、残雪の筋の部分が細かい粒状になっていることが多い。
その粒が雪が降っている様子にも見えます。
万葉集山部赤人の歌「田子の浦ゆうち出でて見れば真白にぞ富士の高嶺に雪は降りける」を思い出すような構図です。
遠景なのに、雪が降る近景がみえているという歌なのですが、
百人一首の歌の趣意に合わせた版画の連作の一つにこの歌をテーマにした画があったので
もしかしたら他の富士のいくつかも、この歌を意識して描かれているのではないでしょうか。

あと他に初めて見た画で、興味深いものはたくさんありました。、Takijpg
とりわけ瀧を描いたものにはとても惹かれました。
図下は「木曽路ノ奥阿弥陀ケ瀧」ですが、
瀧が流れ出している始まりの瀧口が、マーブル状になっていて斬新です。
これは本当は瀧口を上方から見た水面ですが、
それを垂直に立ててみせているのです。
また、流れ落ちる瀧自体も氷のつららか、白い根か体のようで、非現実的な印象です。
いつまでも見飽きない画です。

また「北斎漫画」という庶民の姿を描いたいわゆるカット集も見飽きないです。
北斎の版画に出てくる民衆の多くは、ちゃんとこちらを向いていて
とても身近に思えます。
町人の時代の新しい文化の旗手が、人間を見つめるまなざしは、とても温かいと思いました。