*ランボーの「谷間に眠る男」への返歌(のつもり)です。
さらに接吻のように
河津聖恵
帽子をかぶらない死者はさいわいである?
いまもクレソンの茂みで
帽子もかぶらず 口をあけて 眠るあなた
脇腹の穴がいまだ真っ赤に
いとおしそうにこちらを見つめる
私は胸をつかれた
詩の中で
新鮮なクレソンに浸された
じゃがいものような若い頭のかたち
思いがけないほどの軽さ に
ことばに触れ ふいにてのひらがつめたくなり
われしらずみえない腕を のばした
ランボーが恋した
あなたに恋する
ランボーに恋することは、あなたを愛すること
(一篇の中のベンチにさえ恋いこがれるものが、詩)
さらに接吻のように
透明なうなじをそっと持ちあげよう
あふれるクレソンの銀河の青、あお……
帽子をかぶらない死者はさいわいである?
天のクレソンはそのひとのもの、ならば
あるいは だとしても