#title a:before { content: url("http://www.hatena.ne.jp/users/{shikukan}/profile.gif"); }

河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

涙は雪解け水

涙について考えています。

今日初めて出会ったその人は
なぜふいに目の前で涙をこぼしたのか、と。

6月に出会ったひとも、今日出会った彼女も、
つくしい瞳をみひらいたまま(充血もせず)
みえない潮の必然の高まりのように
なぜふいに涙をこぼしたのだろう。
気がつかない位必然的に。
見とれる位美しく。

朝鮮学校出身の彼女と
朝鮮学校の子どもたちのことを話していました。

ずっと、ずっと
大人になっても、大人になればなるほど
この社会が自分たちを受け入れないという事実を
私たちはくっきりと知らされてくる。

だからあなたの友だちであるそのひとの気持もよく分かるわ。
私も
この国のひととは
どんなに形は親しくなっても
こころはせいぜい三分の一しかひらいてこなかったから。

子どもたちにとってこの無償化除外は
社会の側からの決定的な拒絶を意味するのです。
どんなに傷ついていることか、この国のひとは分からない。
分かろうともしていない。

ずっと、いなくなったほうがいい、と思われてきただけなんて。
子どもたちは、想像を絶するほどつらいでしょう。

けれど彼女が涙を流したのは
別の話に変わってからでした。

固く閉ざされた彼女の心に雪解けをもたらした
日本の友人たちについて語るときでした。

助成金の見直しが決定したら
市長の部屋のまえでハンストをすると言ってくれた議員や
歴史の残酷な事実を前に、まず共に言葉が失われることから出発しようと言ってくれた友人や
十数年現地でフィールドワークしながら
自分がいかに植民地主義の被害者の気持が分からなかったかを知らされたと
絶望感から泣いた歴史学者についてこそ
彼女は涙を流したのです。

無償化除外への怒りからは、それは流されなかったのでした。
その涙はもっととうとかった。
そう、彼女の涙は雪解け水だったから
あんなに美しかった。
昨日書いた熊野の神々の「八角の水精の石」みたいに。

そしてそのこぼれる水を見ることで
私の内側でもさらにあらたな雪解けがはじまりました。