11月1日付神奈川新聞に掲載された在日朝鮮人二世の方のエッセイです。
時流自流 かながわ この人が語る
朝鮮学校で学び
外国人学校ネットワークかながわ世話人・�「安(ぺいあん)
5ヶ月前、滞在先のカナダから送られてきたメールは刺激的だった。
<朝鮮学校の子どもたちは、さぞや肩身の狭い思いをしていると思われがちですが、私を含め多くの朝鮮学校出身者は、順風満帆ではない環境から真実を見極めるすべを身に付けます>
差別を受けるがゆえに見える「真実」がある。その真実が知りたくて、帰国間もなく、横浜に訪ねた。
口にしたのは、カナダで目にしたあるニュース。白人の2人組が中国人を侮辱する落書きをしたかどで逮捕された。「そのことに驚き、同時に自分がいかに日本社会に慣らされ、差別に鈍感になっていたかに気付いた。心を傷つけたのだから罰せられて当然なのに」。差別されても、する側には回るまい。決意表明は、ここでもなされたのだった。
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在日朝鮮人1世の父は、朝鮮大学校の教授で近代朝鮮史の研究者だった。自身もその門をくぐり、夫も教壇に立つ。息子と娘は迷わず通わせた。
「反日教育を受けた覚えはない。習ったのは歴史を知ろうということ」
日本が朝鮮半島で何をし、朝鮮人が何をされたのか。その痛みを共有しよう。いつか自分たちが同じ過ちを犯さないために。歴史の多面性を知る意味を父はそう説いた。
今年2月、中華学校やインド、ブラジル系などの国際学校と立ち上げた「外国学人学校ネットワークかながわ」は、そうした歴史観の延長上にある。「日本の名前や国籍をほしがる来日間もない外国人の子どもたちがいる。名前や言葉、文化を奪われ、差別から出自を隠さねばならなかった在日の歴史が繰り返されている。何かできることはないだろうか、と」
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外国人学校のなかでも朝鮮学校だけが対象外とされていた高校無償化も、制度適用の道が見えてきた。だが、背景に漂う潮流を見詰めれば、心は晴れない。
「朝鮮学校のことをよく知らないのに、声高に反対する人がいるために待ったがかかった」
知らないままに決定がなされていく。流されていく、その怖さ。「北朝鮮はいじめていい存在で、朝鮮学校はその学校という図式。通っているのは北朝鮮の子どもじゃない。日本で生まれ、生きていく子どもたち。なのに排除の対象につくり上げられた」
そういえば、松沢成文知事も定例会見で言っていた。
「反日的な教育が行われているとの報道がある。その通りなら日本政府が支援することは国益の観点から問題」。そして付け加えた。「教育内容を知っているわけではないので、断定的なことは言えないのですが」
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確かに朝鮮学校も変わった。「政治的な内容を教えることは減った。以前は帰国が念頭にあったが、いまは永住が問題だから」。卒業生は日本の大学や企業に進むようになり「多くの人は認めてくれている。本当に反日教育していたら、そんな人材を受け入れられないでしょう」。
つらいのは、北朝鮮による拉致の被害者家族が無償化反対を主張していることだ。「家族の方の思いが分かるのは、日本人より、強制連行を経験している私たち在日だと思うのに」。かつて横田めぐみさんの母、早紀江さんが講演で「朝鮮学校の生徒に嫌がらせをしないでほしい」と話すのを耳にしたこともあったのだが。
分断された痛みを結ぶすべはないのか。
「いまでは横浜山手中華学校は日本人を受け入れている。中国の立場で教えることを説明し、それでも国際感覚を身に付けさせようと通わせる親がいる。同じように、朝鮮学校も日本人を受け入れるようになるかどうか」
声を大にして言いたい。反日でも、北朝鮮のためでもない。多面的なものの見方を身に付けること、それは平和のための教育なのだ、と。