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詩空間

河津聖恵のブログ。この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

「ムサン日記〜白い犬」(パク・ジョンボム監督)

韓国映画「ムサン日記〜白い犬」(パク・ジョンボム監督)を見ました。Musan
感受性の鋭い、根源的な問いかけを触発するすぐれた映画でした。

構成やカメラ回しにも無駄なところがなく、
いつしかこちらの心は
孤独な青年の背中につねに吸い寄せられていました。
ラストはかなり考え込ませるものでしたが、
人の魂を裸形にして蘇生させる、という映画の本来のカタルシスを
十分あじわうことができました。

パク監督は、先日見たイ・チャンドン監督の「ポエトリー アグネスの詩」で
助監督を務めていた人。
今回の映画では、製作・監督・脚本に加えて、
何と主役のスンチョル役までこなしています。

ストーリーは下記をご参照下さい。
http://musan-nikki.com/story/

スンチョルは脱北者。おかっぱ頭で寂しい目の青年です。
映画ではそのこんもりと俯いた背中が印象的。
ああ、こんな人、どこかで会ったことがあるなあと
心がまさぐられるようなタイプ。
監督と一緒にかつて映画の仕事をしていた、実際脱北者の青年がモデルとのことです。
その人は病気で亡くなってしまったそうですが、
だからこそ監督は彼を蘇らせるような気持で演技しているんだなあと思います。
韓国社会というよりは「俗世間」に馴染むことを拒み続け、
白い飼い犬が象徴する白い心を持ち続けようとするスンチョルの孤独は、
私の心にもまだどこかに存在しているような気がします。
彼の所作やまなざしの一つ一つからひりひりと伝わってくるものがあって、
自分の内奥が触発されていきました。

この映画は決して政治的な映画ではないのですが、
脱北者という人々の存在の現実をかなりリアルに描いているようです。
なぜ北朝鮮を出てきたのか
韓国でどのように扱われているのか
そしてそのはざまでそれぞれの魂がどう苦しめられているのかを
この映画は、一人の青年の個の内側から描きだそうとしています。

人は自分が生まれてくる個人的な宿命や国家体制を選べない。
しかし小さな存在として白い心を求めて抗いを続けていく。
誰しもが抱くよりよく生きたいという願いと
それが現実からしっぺ返しを受けた時に反動的に抱くニヒリズムを往還する。
そのような、
社会主義か資本主義かという論議の次元よりも遥かに根源的にある
「人間は人間に必然的な魂の矛盾をどう生き抜くのか」という問いかけを、
深く鮮やかに私の心に残した映画でした。