#title a:before { content: url("http://www.hatena.ne.jp/users/{shikukan}/profile.gif"); }

河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

2021-01-01から1年間の記事一覧

2021年12月6日京都新聞朝刊文化面「詩歌の本棚・新刊評」

人の心は今どんな傷を負い、どんな希望と絶望が明滅しているのか。不可視の痛みが多くの人の心に深まっているのは確かだ。自己の痛みからそれを捉えられるだろうか。痛みもまた心の奥底で共鳴しうる響きを持つとしたら。遥かな他者の痛みを感受するために、…

2021年10月18日京都新聞朝刊文化欄「詩歌の本棚・新刊評」

最近詩で京言葉を初めて使った。東京から京都に来て長い年月が経つが、その時母語である標準語からふっと解き放たれた気がした。意味や感情に柔らかさが生まれ、風通しがよくなり、対象がぐっと近づいた。 方言には標準語にはない生命力がある。京言葉にも柔…

11月13日「現代詩の祭典」で講演します

11月13日に紀の国わかやま文化祭「現代詩の祭典」で講演をします。 紀州・熊野をめぐって詩を書き、詩集『新鹿』と『龍神』が生まれた経験について語ります。 中上健次さんと深く関わる詩「新鹿」一篇が話の中心になると思います。 詳細は以下のサイトにあり…

2021年9月6日京都新聞文化面「詩歌の本棚・新刊評」

詩は戦争を伝えることも出来る。詩だけに可能な伝え方を模索するならば。心の内奥で死者と出会う経験を重ねて、それは掴み取られる。幻視する非業の姿、どこからか聴こえる叫び、悲劇を伝えてと託す声。やがて無意識を突き動かされて、新たな詩が始まる。 石…

2021年7月19日京都新聞朝刊「詩歌の本棚・新刊評」

すぐれた詩は音楽に似る。だが音韻が美しいというだけでは「音楽」にはならない。心と心が響き合うという言い方でも説明出来ない。「音楽」はむしろ心が消え果てた冷たい空虚からやって来るように思う。言葉が読み手にひそむ空虚に触れ、不思議に鳴らす。そ…

2021年6月7日付京都新聞朝刊文化面「詩歌の本棚・新刊評」

視覚は現代詩において重要な感覚だ。だが見えるものを日常的に見ることからも、また見えないものを観念的に見ようとすることからも詩は生まれない。そうではなく日常や観念によって見えなくされている世界のすがたを、言葉の力で陰画のように可視化する時詩…

2021年4月19日京都新聞朝刊文化面「詩歌の本棚・新刊評」

詩作品にはそれぞれに固有のトポスがある。一般にトポスとは、例えば故郷のように記憶や情動と深く関わる場所を指す。一方詩のトポスとは旅先から自室に至る、詩が生まれたり詩の舞台となったりする時空のことだ。その実相は、日常の遥か外部にありつつ、作…

2021年3月1日京都新聞文化面「詩歌の本棚・新刊評」

東日本大震災からもうすぐ十年。あらためて、年月の経過が掠りもしない時間の外の出来事だったと思う。大津波は「そこ」に今も押し寄せる。蘇る破壊と叫喚に目と耳は凍りつく。あの時詩を書く意識の底にひらいた深淵は、言葉の瓦礫を浮遊させつつ決して閉ざ…

2021年1月18日京都新聞「詩歌の本棚・新刊評」

人の意識は今、途方もない不安に揺らいでいるようだ。無意識もまた立ち騒いでいるのではないか。一方詩は「天から降りてくる」とも言うように、無意識を感受して生まれる。この不安な時代から新たな詩が生まれないとも限らない。夢、幻想、トラウマなどの在…