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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

「環」49号/「連載・詩獣たち」第6回「詩という空虚を抱え込んで─ガルシア・ロルカ」

「環」49号にKan
「連載・詩獣たち」第6回「詩という空虚を抱え込んで─ガルシア・ロルカ」を書いています。

ロルカといえば、「ファシストに虐殺された詩人」として知られています。
しかし決して反ファシズムの思想ゆえに殺されたのではありません。
確かに彼は人民戦線に加わっていましたが、
それは「革命家ではない本当の詩人はいない」という信念からです。
つまりファシストたちは
彼が本当の詩人であるがゆえに危険視し、憎んだのです。
ロルカの宿命の悲劇性は
これまでこの連載で触れた、あるいはとりあげた詩人たち、
尹東柱パウル・ツェランランボーや中也の悲劇性とも
確かに通底しています。

ロルカの詩には、
人間の魂が遙かに共鳴し響き合うための
美しいゆたかな空虚があります。
そのためにファシズムは詩獣を憎みました。
しかしその詩的空虚はファシズムの炎の中からも不死鳥のように甦り
今も私たちの魂をうちふるわすのです。今回、その不死の秘密に、詩人の生涯と時代背景をからめて迫ってみました。

「ガルシア・ロルカの詩は、音読する時にその美しさがもっとも立ち現れると言う。スペイン語の原詩を我流に読むだけでも、その豊かな音楽性は感じられる。だがたとえ翻訳であっても、その詩には詩人の魂の動きが、おのずと見えてくる。悲しみと歓びの透明な波動が、光や風や水のように伝わってくる。磨き抜かれたプリズムのような詩獣。その詩は、世界の煌めきに共鳴し、ガラスのような感性で愛や苦悩を屈折させる、類稀な美しい空虚の結晶体だ。詩という空虚こそは人間の魂の真実である──詩獣は、空虚を押しつぶす政治の肉厚な声の暴力が世界を満たし始めた時代に、透明な声で高らかにうたった。」(冒頭部分)

なお、今号の特集は「3.11と私─東日本大震災で考えたこと」です。