『環』58号(藤原書店)に
「詩獣たち」15回「白鳥の歌 ボードレール」を書いています。
ボードレールとはどのような「詩獣」だったか-―
詩獣は1821年4月9日、パリに生まれました。
フランスの詩人としては珍しいようです。
しかも生涯の大半をパリで過ごしました、
そして都市の生活から着想とインスピレーションを得て、詩を書き続けました。
成人後、亡くなった実父の遺産を継ぐことが出来てからは、
自由奔放な生活を謳歌します。
でもまるでこの世に反抗するかのような多額の浪費は家族を驚かせ、
愛する母によって法定後見人を付けられてしまいます。
(その時のとても痛々しい手紙が残されています。)
エドガー・アラン・ポーにとても心酔して、
このアメリカの詩人を初めてフランスに紹介しました。
無政府主義に惹かれ二月革命にも参加します。
生前唯一の詩集『悪の華』を出版するも、
風俗壊乱の罪で一部削除と罰金刑を命じられます。
67年8月31日、梅毒の症状悪化(と推測される)により亡くなります。
46歳でした。
そこにいつぞや、動物の見世物小屋が掛かっていた。
そこに私は見たのだ、ある朝、つめたく明るい
窓の下で、〈労働〉が目を覚まし、道路清掃の車が
沈黙した空気の中に、陰鬱な旋風を起こす時刻、
檻から逃げ出して来た一羽の白鳥が、
水かきのついた足で、乾いた敷石をこすりながら、
でこぼこの地面の上に白い羽衣を引き摺ってゆく姿を。
(「白鳥」)
今回の詩人論は、この詩から始まります。
何かとても痛々しい詩ではないでしょうか。
近代都市として大きく変貌を遂げていたパリの片隅で
白鳥は水を求め彷徨っています。
水のない側溝の埃に翼を浴(ゆあ)みさせて、
残酷な青空をふりおいで
「水よ、いつお前は雨と降るのだ? いつ轟くのだ、雷よ?」
と呪詛しながら・・
そのような痛みと聖性を魅惑的に、そして不敵に煌めかせる
まさに詩そのもののような生の翼――
資本主義が台頭し、通俗的になっていく世を逆なでし
象徴の森としてざわめかせていった
ひとりのダンディな白鳥の美しさを
多くの人に知っていただきたいと思い、書きました。