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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

1月25日付「しんぶん赤旗」掲載エッセイ│「人間は人間を目指し続ける」

2012年1月25日付「しんぶん赤旗
朝鮮学校無償化除外から2年
人間は人間を目指し続けるソウルの合同出版記念会 海こえた共感
                                                            河津聖恵

 2010年2月、鳩山元首相は、当時の拉致大臣の要請を受け、朝鮮学校を高校無償化の対象から当面除外すると宣言した。あれから二年。錯綜する情報に私達は一喜一憂し、希望を抱くたび打ちのめされた。だが政治家達は依然として、自分達の利害と保身のために無償化除外を続けており、そのことで傷ついている子供達の心を知ろうともしない。政府には高校無償化の理念を守り通そうとする気概は見えない。当初は朝鮮学校の無償化を決めていた文科省も、政治の介入を毅然とはねつけられないままだ。さらに理不尽なことには、震災後、地方議会で補助金の支給停止が次々決議されている。この国の保守政治家たちの非人間性はとどまるところを知らない。ただ恥ずかしく、情けない。
 だが一方、この二年間に朝鮮学校に対する理解の輪は、確実に拡がってきている。除外の理不尽さに疑問を抱き、多くの人々が授業や学校行事を見学した。各地で新たな支援会も立ち上がった。また東北の朝鮮学校は震災時に炊き出しをして市民との交流を深めた。残念ながらそれらの出来事は殆ど報道されない。しかし、皮肉にも除外問題をきっかけに知られるようになった生徒達の、普通の高校生と変わらない勉学やクラブ活動に励む姿は、確実に多くの人の共感を得ている。
 さらに共感の波動は海の向こうにも拡がっている。昨年11月、ソウルで『ハッキョへの坂道』と『私の心の中の朝鮮学校』の合同出版記念会が開かれ、私も朗読者として参加した。前者は、昨年八月に私と許玉汝(ホ・オンニョ)さんが編集した『朝鮮学校無償化除外反対アンソロジー』から、在日コリアンの詩人と日本の詩人合わせて38人の詩を韓国語に翻訳した詩選集。後者は、かの地で生まれた支援組織「モンダンヨンピル」共同代表である俳優権海孝(クォン・ヘヒョ)氏(「冬のソナタ」等に出演)が、生徒達が描いた絵に寄せたエッセイの絵本。この同時出版は、収益金の半分が「モンダンヨンピル」を通じ被災地の朝鮮学校に送られるという、朝鮮学校のためのチャリティー企画である。
 その夜、私は、朝鮮学校の生徒をイメージして綴った「ハッキョへの坂」を朗読した。人前で何度も読んできた作品だが、これまで感じたことのない真剣な場の空気を感じた。殆ど韓国人である二百名の観客が、身を乗り出すようにこちらに耳を傾けていた。かれらの多くは、朝鮮民族としてのアイデンティティを守る朝鮮学校の立場を理解し、また映像等で生徒達の実際の姿も知っていた。私が読んだのは日本語だったが、翻訳本を時折見つつ熱心に聴いていた。会の終了後、多くの人が韓国語や日本語で励ましの言葉をかけてくれ、用意した四百部はすぐに売り切れた。
 『アンソロジー』を読んだことで二冊の同時出版を企画した韓国の写真家は言った。「私が朝鮮学校を支援するのは、同じ民族だからではありません。民族の文化や言葉を学ぶ生徒達の輝きに感動したからです。それは普遍的な気持です」。そう語る彼の言葉に人間の深さと温かさを感じた。そう、この国の無慈悲さや理不尽さなどに負けてはいけない。闇が深まれば深まるほど、人と人とは星座のように繋がれていく。心の壁や国家のエゴイズムを乗り越えて、人間は人間を目指し続けるのだ。